第3話 博士と助手 電気自動者
「博士やりましたよ。ついに完成しました」
頭脳は
「どうしたんだ……そんなに興奮して?」
発明家として世界的までとはいかなくても、マニア
「ついに世紀の大発明をしましたよ」
下ネタ以外で大野君が興奮しているのは珍しい。
「そうか! さすが大野君だ。ワシも鼻が高いぞ……で? 何をやったんだ?」
それを先に聞くべきである。【類が友を呼ぶ】を立証する二人である。
「電気自動者です」
「電気自動車?」
「はい!」
沈黙が、約一分続いた。
大野君の満面の笑みを科学者らしく解読しようと試みる博士だが、天然同士である。あきらめた。
「今……電気自動車といったのか?
「違います。電気自動車でなはく。電気自動者です。『車』じゃなくて『者』です」
「はっ? 電気自動『者』……何だそれは?」
博士でなくても意味が分からない。
興奮する大野君は、ジタバタしながら背負っているバックからヘルメットを取り出した。
「このヘルメットを被ってみてください」
大野君は自転車用によく見る
「これを被るのか? 大丈夫なんだろうな?」
博士は、
二人の信頼関係を
「こっちに来てください……車に乗りましょう」
大野君は、博士の手を引くと、研究所の駐車場向かった。
「車に乗ってからヘルメットを
基本、学者は女性に興味ないというのが定説なのだが、博士の場合は色欲の為に科学者になったと言っても過言ではなかった。
「とにかく、エンジンをかけたらヘルメットのマイクに向かって、行きたい場所を言ってください」
大野君が満面の笑みを浮かべながら、ヘルメットの耳のあたりに着いているマイクを指差しながら言った。
「ここに……行きたい場所を? なんか怪しいなぁ……じゃあ……とりあえず『我が家』」
行動範囲の狭い博士である。
「了解しました」
大野君とそっくりな声が聞こえてきた。ヘルメットが博士の声を認識したと同時に全身を電流が走った。
「なんだこの痺れは……あ! 体が勝手に動き出したぞ」
博士の意に反して、勝手に車のエンジンをかけると、車を発進させた。
「なんと……確かに『我が家』に向かって運転している……」
「どうです博士。人の脳に直接電流を流して勝手に『体』を動かすシステムなんです」
自慢げな大野君である。
「なるほど……中々のアイデアじゃないか」
普段から
「しかし、このシステムで、危険を察知したり、信号や標識を認識できるのか?」
博士の言うとおりである。 ヘルメットにはそれらしきセンサーの類は付いていなかった。
「その点は、抜かりありませんよ」
任せてくださいとばかりに、胸を叩こうとした大野君だが、出っ張った腹が邪魔をして「ポンッ」狸の
「全ての動作は、博士の目を通して判断するようになっているんです」
「目を通して?」
「そうです。博士が赤信号を見たらブレーキをかけるし。子供を見つけたらスピードを
「じゃあ……なにか? 私は常に周りを注意しないといけないって事か?」
「そんなに集中して目を凝らす必要はないですよ。軽く気にしていれば、体が勝手に動いてくれますから……ほら、今だって信号で停まったじゃないですか」
「そうりゃ、そうだが……」
「このシステムを使えば、運転中にコーヒーだって飲めますよ……」
「そうりゃ、そうかもしれないが……」
「パンだって食べられるし。電話だって……」
「大野君……君は、運転免許を持っていたか?」
興奮している大野君に博士が尋ねた。
「免許? そんなの持っていませんよ。研究一筋ですよ……僕は」
大野君が答えた。
「よく聞け、大野君。車を運転している人は、ほとんど無意識でも……運転できるんだよ」
「本当ですか? コーヒー飲みながらでも?パン食べながらでも?」
ひとつ、ひとつに大きくうなずく博士。
「半分寝ながらでも、気が付いたら目的地に着いていた……なんてザラなんだよ」
「そんな……ばかな」
がっくりと肩を落とす大野君。そんな、大野君の背中を軽く叩きながら博士が言った。
「今回の研究も、何の役にも立たないガラクタだったな……また次を挑戦すればぁ」
動かない体が動くようになる。無意識でも作業ができる。
ありとあらゆる分野で可能性が無限大に広がる発明品が、ガラクタとなって研究室の隅に積み上げられた。
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