クル

 僕たちは校舎裏倉庫で栗鼠を飼っていた。交代で、毎日木の実を拾ってきては、栗鼠に与えていた。栗鼠の名前は決めない、という黙契があったが、……僕はこっそり栗鼠のことを「クル」と呼んでいた。毛の色合いがクルミに似ていたから。

 それがクラスメイトの一さんにバレてしまった。

 一さんは僕が栗鼠を「クル」と呼んでいるところを目撃していたらしく、階段の踊り場でその話を持ち出してきた。

「君はさ、栗鼠のことをクルって呼んでいるよね」

「…………」僕は一瞬フリーズしたが、嘘をついても詮無いので頷いた。「名前をつけちゃいけないのは知ってるんだけどさ、つい」

「ふぅん」

「みんなには内緒にしてくれないかな」

「いいよ、べつに。そもそも、言いふらすつもりはなかったよ」

 一さんは洒落に笑った。綺麗な歯だな、と僕はやや場違いな感想を抱く。

「クルっていい名前だと思うよ」一さんは自分の爪を見ながら、言った。「やっぱあれ? クルミからとったわけ?」

「まぁ、そうだね」僕は言う。「……ほら、毛の色がクルミに似てるから」

「そうだったんだ」

 一さんはちょっと目を丸くし、首を揺らして頷いた。

「クルミを食べるからクルにしたのかと思ったよ」

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