魚が床で死んでいる

 家に帰ったら、魚が死んでいた。

 どういうわけか床の上で息絶えていた。

 僕は三秒くらい、ひょっとしたら三十分くらいフリーズしていた。疲れきってソファに座って、ふと視線をずらしたら魚が目に入った。魚の死骸が。なにか落ちているな、ゴミかな、と思ったら魚だった。水槽で泳ぐか寝るか餌を食っている筈の魚が、どうして床の上でこときれているのか理解できなかった。

 僕はゆっくりと、死ぬほどゆっくりとソファから立ち上がり、魚の傍に屈んだ。魚の周りの床は少し濡れていた。「片付けないと」と思い、しかし、動けなかった。

 ちなみにこの家に猫とか、犬とか、分別のない幼い子供とかはいない。いたとしたら、そいつが魚を殺したんだろうな、と推測できるわけだから、きっとこんなに、混乱しなかっただろう。そうか、混乱しているんだ、と僕はひとりで頷いた。

 頷いたら涙がこぼれた。

 まるで哀しいみたいに。

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