連れて帰ると色褪せる

 綺麗な靴を見つけて、気がついたら購入していた。米を買う為の金を、靴を買うのに使ってしまったので青ざめた。でも次の瞬間には、「食べなければいいか」と開き直っていた。

 自分に「浪費癖」があることは知っていた。どうせ履かない靴や、つけないピアス、被らない帽子を買ってしまうのだ。たまに泣くが、泣いたところでどうにもならんので三分で泣き止む。

 家に帰って、今しがた手に入れたばかりの靴を眺めた。テーブルの上に乗せて。やっぱり綺麗な靴だったが、お店にある時の方が綺麗だった。連れて帰ると色褪せる……、だいたいのものはそうだった。子供の頃はクロッカスやコスモス、トンボやアゲハ蝶を家に持って帰っていた。外ではきらきらと輝いて見えたものが、家に連れて帰ると途端につまらないものになる。

 靴を指先で撫でる。

 新しいにおいがする。

 そのにおいも、明日には消えるだろう。

 嘆息する。綺麗なものは結局、どれも、手に入らないのだ。掴んじゃいけないんだ。綺麗なものは汚い人間に触れられると死んでしまうのだ。どうしてそれが判っているのに、何度でも手を伸ばしてしまうのだろう。

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