蛍と光るキーホルダー

 蛍かと思った。

 でも、違った。それは、こちらに歩いてくる女の子のカバンについている、光るキーホルダーだった。リュックをかしゃかしゃ言わせながら、足元の長い草をかき分けながら、彼女はこちらに近付いてくる。

「迷子ですか?」

 彼女はそう、僕に訊ねた。こっちの台詞である。

 こんな時間に、こんな場所で、なにをやっているのだろう。僕は持っていた懐中電灯で、失礼にならないように、控え目に彼女を照らした。袖のないシャツに、ショートパンツに、サンダルに、そして光るキーホルダーのついたリュック。

「虫に刺されないか」僕は訊いた。「そんな格好じゃ」

「あなたも似たような格好ですよ」

 彼女は僕を指差した。僕が、半袖に半ズボンだったから。

「僕はいいんだよ」

「どうして」

「虫よけをかけているからだよ」

「じゃあ、あたしもかけているので大丈夫です」

「じゃあ、ってなんだよ」

「迷子ですか?」

 最初の質問を、再び彼女が繰り返した。ちょっとだけ小首を傾げて。不思議な顔立ちだった。大人にも子供にも見えない。目がかすかに光っている気がした。猫のように。

 僕は意味もなく、懐中電灯で空を照らした。空には星がいくつか出ていた。面倒臭いな、と思う。もう、この子と喋りたくない。殺してしまおうか。

「星を見に来たんですか?」

 僕が空を見ていたので、彼女はそういう風に解釈したらしい。そんなロマンチックなことするものか、と思ったけれど、面倒だったので否定も肯定もしなかった。

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