灯りにならない

夏陰

灯りにならない

「これ、火がつきませんよ」

 彼女は蝋燭を指差して、言った。マッチを一本もらって、火を近付けてみたけれど、確かにつかない。

「本当だ」

「不良品じゃないですか」彼女は不満げに、でも抑揚なく言う。「棄てましょうよ」

「時間が経ったらつくかも知れない。少し置いておこう」

「つくわけないですよ」

「芯が湿気ってるんだよ、きっと」

「じゃあもうダメですね」

 彼女は背もたれを軋ませながら、椅子に腰掛けた。腕を組んで、つまらなそうに窓の外を見遣る。「あぁ、暗いなぁ。これじゃあ本も読めやしませんよ」

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