ありがとう②

そんなcha-chaは、猫らしかぬ猫だった。

うちには犬も居る。

野良ハトが目の前で自分の餌をついばんでいても、

目を細めて見守っているような、おっとり犬だ。

cha-chaは来た当初から、そいつにべったりだった。

それが原因なのか、人間(私)に育てられたからなのか、

もともとの性格がそうだったのか。

猫飼いの友人たちの語る猫あるあるに、

同意できない事が多々あった。


まず、おもちゃに対する反応が薄かった。

猫じゃらし的なものも、ボールも、動くネズミも。

一応反応はするもののすぐに興味を失くす。

無駄になる予感は大いにするが、一緒に遊びたくて、

出先で良さげなおもちゃを見つけては、ワクワクと買って帰った。

だが、cha-chaはそんな私の気持ちを汲み取ることはせず、

目の前で、それをフリフリフリと振り回す私に、

「なにしてんの?」と冷めた目を向けるだけであった。


お風呂好きなのも珍しがられた。

私が在宅の際は、まるで後追いする幼児のごとく、

行く先々に、トイレやお風呂までにもついて来た。

お風呂は、脱衣所で私を待ってるのが常だったが、

自分がキレイになりたい時は、浴室まで入り込んできた。

cha-cha専用の小さな青い風呂桶を、

前足でチョンチョンと押すのが、お風呂の催促サインだった。

しかし、いざお湯をためても、なぜか自分からは入ろうとせず、

私に、ゆっくりと浸からせてもらい、

私に、身体の汚れだけでなく、

目やにや顎の汚れを、うっとりとしながら取らせていた。

そう、なぜか私だけに。

旦那や息子には一切させなかった。

これは私が単なるcha-cha専属の家来だったからなのか。

はたまた、私に1番気を許していだだけのことなのか。

言葉が通じたらぜひ聞いてみたい事のひとつだった。


散歩も好きだった。

トコトコと、私とおっとり犬の散歩の後についてくるのだ。

しかもリードも付けていない。

すれ違う方は大抵ビックリして振り返る。

本来ならリードをすべきだろうけど、

装着すると一歩も動かなくなる。

散歩の間は、私とおっとり犬の傍からは一切離れないため、

結局、cha-chaにはリードは着けずにいた。

そのため、あまり大通りには出れない。

たまに遠くまで歩きたい日には、cha-chaにおやつを与え、

それに気を取られているすきに急いで家を出た。

帰宅すると玄関先には、恨めしげに目のすわった、

スフィンクスポーズのcha-chaがいた。


登って欲しくない棚の上やテーブルの上には、

1度「だめだよ」と言えば2度と登ることはなかった。

人間の食べ物は、フンフンとニオイを嗅げども、

それを欲しがったり、

目を盗んで咥えて逃げることもなかった。

初見の人や幼児にも寛容で、

どんな人にも撫でられてやり、抱かれてやっていた。


私はcha-chaと暮らし始めてから、

一気に犬派から猫派に転身してしまった。

犬グッズは集めた事はないが、

不思議と猫グッズは集めたくなった。

特にピアス等のアクセサリーは、

猫モチーフのものが、たくさん手元に集まり始めた。

おっとり犬も可愛いが、

また別の魅力がcha-chaにはあった。


ただ一つだけ困った事があった。

私が何かに集中すると邪魔をしてくる事だ。

新聞を読めば、その中央にでーーーん!と寝っ転がり、

モフモフのお腹をこれみよがしに披露してきた。

退かせても退かせても、でーーーん!と来るため、

最終的には私がモフモフに負け、

モフモフマッサージタイムに突入する事が多かった。

スマホをいじれば、画面との間に無理やり入って来るし、

パソコンも、普段は寄り付かないくせに、

私が操作すれば、キーボードが彼のベッドになった。




そんな感じで、cha-chaとの日々は永遠に続くと思っていた。

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