ありがとう①
私のペンネームと、
このエッセイのタイトルの一部である「cha-cha」とは、
私が愛してやまない飼い猫の名前から拝借したものだ。
彼がうちに来たのは6年前の初秋だった。
その日は季節外れの台風が過ぎ去ったばかりで、
まだ湿った風が名残惜しそうにそこら辺を舞っていた。
潮を含んだ雨粒や、暴風でちぎれ飛んできた葉っぱ等を、
家の周辺や車から洗い流すにはまだ早いだろうか…。
と、玄関先から顔だけ出した私の耳に、それは飛び込んできた。
か細い、今にも消えそうな声だった。
一瞬風の音と聞き間違えたかと思うくらいの。
その声の主は、玄関先の溝にうずくまっていた。
目もまだ完全には開いていない茶色の毛玉。
恐る恐る両手で拾い上げると、
あのか細い声は嘘だったかのごとく、ミーミー!とギャン鳴きし、
飛び付くように胸元へ、そして一気に肩へとよじ登ってきた。
当時の私は、「私は猫アレルギーだ」と思い込んでいたため、
この茶色い毛玉の思わぬ行動に、あわわあわわと慄いた。
それがcha-chaとの出会いだった。
自称猫アレルギーのため、猫に関する知識がほとんどない。
図書館やネットをあさった結果、
彼はまだ哺乳瓶が必要な時期だと知り愕然とした。
この辺鄙な田舎に猫用の哺乳瓶なんてあるのだろうか。
しかも仕事をしている身で育児(育猫?)できるのだろうか。
慌てて近くの犬猫病院に駆け込んだ。
すると、そこの獣医が信じられない言葉を発した。
「この子、飼うの?その気がないなら捨てなさい。」
捨てろ?
私の片方の手のひらにすっぽり収まるこの毛玉を?
自力でご飯も食べれないのに?
はぁ?何言ってんの?
よし!じゃあ飼ってやろうじゃないの!!
あとから聞くとその獣医は、わざと冷たく対応したとのこと。
飼う覚悟、育てる覚悟があるかどうか。
試したのか!と、またまたムカついたが、
おかげでcha-chaは1年後には、
かなり貫禄のある青年猫に成長してくれた。
あ。去勢しちゃったからオネェ猫か?
貫禄のあるオネェ猫……猫界のマツコ??
どおりで常に達観した態度だったわけだ…cha-cha。
つづく
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