期間限定の宝物
先日、友人のお宅へ招待されたのでお邪魔してきた。
彼女には人懐っこいおしゃまで可愛い4歳の女のコがいる。
以前から何故かその子に気に入られている私は、
玄関先からピッタリと傍に寄り添われ、熱烈な大歓迎を受けた。
聞くと、私の訪問の予定を知った時から、
娘ちゃんのテンションはあがりまくりだそうだ。
前日のオヤツも、
「まぁちゃん(私)にあげるのー」
と言って取り置きをしてくれているという。
嬉しい限りである。
どれどれ、じゃあそれを頂いてもよろしいですか?と言う私に、
娘ちゃんは弾ける笑顔で、
「うん!待っててね。今、発泡スチロール持ってくる!」
と言いながら、キッチンへ走って行った。
…発泡スチロール?あの梱包材の??
困惑する私を他所に、事情を知っているらしい友人は、
私達のやり取りをクククッと笑って見ている。
数分後、娘ちゃんはお皿を両手で持ち可愛いエプロン姿で再登場した。
「はい、どうぞ召し上がれ!…発泡スチロール♡」
目の前に出されたそれは、
可愛いイチゴ模様のお皿に乗ったフレンチトーストであった。
少しの間の後、友人と爆笑する。
発泡スチロールとフレンチトースト。
全然似ていないこの2つの言葉は、
娘ちゃんの中では固い絆で結ばれているようで、
何度訂正しても直らないと言う。
可愛い。可愛過ぎる。思わず、
「これなぁに?」「発泡スチロール!」爆笑
「これなぁに?」「発泡スチロールってば!」爆笑
と、しつこく繰り返してしまったため、
娘ちゃんは少々むくれてしまった。
これはマズイ。好感度が下がってしまう…と話題を変える事にした。
歌の大好きな娘ちゃんに何か歌ってとリクエストをしてみる。
するとむくれた顔のまま「ちょっとだけよ」と隣の部屋へ消えて行った。
どうやら衣装替えをしに行ったらしい。そういうところも可愛い。
息子しか居ない私はもうメロメロである。連れて帰りたいくらいだ。
そんな話を友人としていると、ふすまの向こうから
「始まりますよー、拍手して!」
と可愛い声が聞こえてきた。
ふと思い付いて、私はスマホを取り出し撮影の準備をした。
ふすまが開いた。拍手で迎える。
娘ちゃんは、去年のハロウィン用に買ったと言う、
お姫様風の青いドレスを着ておすまし顔だ。
私のスマホに気づきカメラ目線の笑顔をくれる。
1年で随分成長したようで、裾が少し短いのもまたまた愛らしい。
仰々しいお辞儀の後、いよいよ一人歌謡祭が始まった。
「どんぐりころころ どんぐりこ〜♪」
もう、曲のチョイスもたまらない。
ん?待てよ?どんぐりこ?どんぶりこ…じゃなかったっけ?
「おいけにはまって さぁたいへん♪」
うんうん。振り付けもバッチリだ。
「おじょうがでてきて こんにちは〜
おっちゃん いっしょにあそびましょ〜♪」
…お嬢!おっちゃん!!
池の中からドレス姿の叶姉妹が登場し、
少々頭の寂しいおっちゃんに手を差し伸べている…。
そんなシュールな映像が、私の脳内で再生されてしまった。
やばい、やば過ぎる。スマホの画面が大きく揺れた。
手を叩き涙を流しながら爆笑する私と友人を、
拍手喝采を期待していた娘ちゃんはキョトンと見ていた。
そう言えば、私の息子も娘ちゃんと同じ年頃に、
同じように笑わせてくれた事があった。
クリスマスの時期に保育園で習ってきた歌を、
お迎えの車の中で披露してくれたのだ。
「真っ赤なお鼻のぉ〜 こめかみさんはぁ〜♪」
あまりの笑撃に、車を路肩に寄せしばらく身悶えた。
意地悪な母親(私)は、訂正する事はもちろんせず、
その冬は「こめかみさん」を充分に堪能させてもらった。
子供の成長は早い。
息子の「こめかみさん」は、翌年にはもう、
「トナカイさん」に成長していた。意地悪な母親の意に反して…。
友人の娘ちゃんも来年の秋はちゃんと歌えているだろう。
青いドレスも、妹ちゃんへお下がりされているに違いない。
数日後、私達の爆笑ももれなく付いてくるその歌謡祭の映像は、
某アプリのタイムラインで、友人によって拡散されていた。
「+゚*宝物+゚*」と題して…。
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