真夜中の出来事

私には妹がいる。

仲の良さは定評があり姉妹かつ親友のような関係だ。

現在は離れて暮らしている為、年に数回しか会えないが、

会う度に周りが呆れる程ふたりして何かしら爆笑している。


あれは私が小学校高学年の頃であろうか。

尿意を覚えてふと夜中に目が覚めた。

現在もそうだが、当時の私は尋常じゃないビビリのくせに、

幽霊や妖怪等の怖い話が大好きだった。

その日も寝る前に心霊写真特集なる本を読んでしまい、

天井の木目が顔に見える事に気付かないフリをしながら、

計り知れない後悔と共に眠りについた。

そこからの夜中の尿意である。

時計を見ると丑三つ時…尿意など無かった事にして目をつぶった。

だが、無かった事にしたところで敵は攻撃の手を緩めてはくれない。

30分程粘ったところで、私のちっぽけな膀胱は白旗を揚げ、

意を決して勢い良く布団から出た。

「お化けなんてないさ、お化けなんて嘘さ…」

と、心の中で歌いながらトイレに向かう。


薄暗い廊下を進み、トイレへの角を曲がったところで心臓が踊る。

…何かが居る。

トイレ前の常夜灯の仄かな明かりに照らされたそれは、

薄いピンク色のパジャマを着た長い髪の女の子であった。

こちらに背を向け俯き、すすり泣いているように見える。

「!!!」

私は声にならない声で絶叫し、硬直してしまった。

よく心霊番組の再現VTRで、出演者が「きゃーっ!」と叫んでいるが、

あれは嘘だ。本当に驚いた時、人は声は出ない。

どれくらい固まっていたのだろうか。たぶん1分も経っていない。

それが、ゆっくりとこちらを振り返る気配がした。

「!!!」

再び声にならない声で叫ぶ。


「…お姉ちゃん」

「………みーちゃん?!」

ホッとしたと同時に力が抜け、廊下にへたり込んでしまった。

「何してるの!こんな夜中に!!」

怒りも込み上げて来る。

まだすすり泣いている妹にヨロヨロと近づき、思い切り頭を叩く。

「だって…」

「だっても何もない!」

「…ゴキブリ…踏んじゃった…」

「!!!!!」


私が目覚める少し前に、妹も同じように目が覚めトイレに立ったようだ。

用を足し終え、洗面台に向かう途中で踏んでしまったらしい。

おかげてちょっとした仮想心霊体験が出来た。

だが二度は要らない程の恐怖体験であった。


潰れたそれを想像し、怯みながらも妹の足裏を恐る恐る見る。

そこには、ゴム製のクワガタ君が居た。

当時の妹は食玩の昆虫シリーズをコレクションしていた。

クワガタ君はその中でも、彼女の一番のお気に入りだった。

なぜそれがこんな所に…。

かなりの脱力感を覚えながらも、

まだシクシクと泣いている妹を隣の風呂場まで連れて行く。

とりあえず足を洗ってやり、彼女の寝床まで手を引いてやった。

その夜は自分の部屋から布団を持ち出し、妹の横で寝る事にしてやった。

姉とはそういうものだ。妹は守らなくちゃいけないものなのだ。

心の中の恐怖心を護衛心に無理やり変換させ、

そのうちに私も眠りについた。


翌朝、妹に起こされた。

「お姉ちゃん、どうして隣りに寝てるの?怖い夢でも見たの?」


姉の心、妹知らずとはこの事だ。

彼女の枕元に置いたクワガタ君を見ながら薄っすらと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る