野いちご
庭の片隅に野いちごを見つけた。
この家に住んで10年以上経つが、今まで気が付かなかったので、
きっと最近、小鳥が運んできた種から芽吹いたのだろう。
うちの庭はそういう草木で成り立っている。
思わぬ宝物の発見に、嬉々として息子を呼ぶ。
「見て見て!野いちご!!」
「それって食べられるの?ってか食べていいの?」
「美味しいよ〜、食べてごらん。」
「えー、いいよ。お店で売っているものの方がいい。」
…絶句である。
私が小さい頃はこういうものが絶好のおやつであった。
群生して生えている場所を見つけた時には、
ここは天国か!と小躍りしたものだ。
もちろん市販の駄菓子も好きであったが、
道端に生えているこういったものを、
自分の手で収穫し食べる事も好きな子供だった。
野いちごを始め、やまもも、グアバ、桑の実、ビワ、山ぶどう…。
大きな木も猿のようにするすると登り、
年少の子達にも上から落としてやったりしていた。
いかにも「さるかに合戦」のお猿さん状態であるが、
ちゃんと食べられるものを落としていたので、それよりは遥かに優しい。
だが、美味しそうなものは木の上で独り占めしたりした。
改めて息子に聞いてみる。
「どうしてお店に売っているものの方がいいの?」
「だってそれ、そこに生えていたものでしょ?
土が付いてるかも。犬や猫のおしっこも付いてるかも知れないじゃん」
…またまた絶句である。
言われてみれば確かにそうである。
だが、当時の私にその考え方は無かった。
明らかに汚れているものは洗ってはいたが、
軽い汚れ程度は、ふぅっと勢い良く息を吹きかけるか、
ズボンで擦り取るだけであった。
そこにあるから、そのままの状態で食べる。
非常にシンプルだと思うのだが、現代っ子はそうではないらしい。
以前に、寄生虫とアレルギーは関連しているという内容の本を読んだ。
寄生虫に感染するとアレルギーを発症しにくいというのである。
その著者は本の中で、キレイ好き過ぎる日本人に警鐘を鳴らしていた。
確かに昔より「除菌」という言葉をよく聞くようになった。
菌と寄生虫は別物だろうが、菌を取り除くと寄生虫も取り除かれる気がする。
寄生虫も菌もウイルスも、汚いイメージのものは全部、
排除したい社会になっているのであろう。
それに伴うように「アレルギー」という言葉もよく聞く。
卵や小麦や甲殻類はスタンダードなもので、
中には水といった、生きていく上で最も大切なものを
アレルギーとする方もいると聞く。
何だか増えているなぁと思った頃に出会った本であったため、
目からウロコ状態でフムフムと読了したが、
かと言って寄生虫を飼う余裕は私には無いなという感想だけで終わっていた。
その本の内容を、うろ覚えながら息子に説明した。
すると彼は少し考えた後に、こう言ったのだ。
「じゃあどうしてお母さんはアレルギー体質なの?
薬は飲まずにさ、寄生虫を飲めば良くない?」
…みたび絶句である。
もういい。野いちごは全部、私が独り占めにしてやる。
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