好き嫌い

息子は偏食家だ。


まず野菜全般が嫌いだ。

子供が嫌いな野菜トップ10あたりは勿論のこと、

コーンやキュウリ等の比較的安全パイなあたりも嫌い。

トマトとジャガイモくらいしか口にしてくれない。

吹けば飛ぶようなくらい小刻みにしても警察犬のように嗅ぎつける。

痕跡を少しでも発見するともうダメだ。

黙秘権ならぬ食わぬ権を発動し口を割らない。

外食に行くと、付いてくるサラダ類は全部私に回ってくる。

それでお腹いっぱいになる私は、メインを半分旦那に譲る。

いったい何がメインなのか分からない。


初見の料理も食べない。

その料理がどんなに素晴らしく美味しいのか、

エリート営業マンばりにプレゼンしても無駄である。

「食べないと人生損するよー」と言っても

「食べなくても死なんし」の一言で撃沈させられる。

たまには手の込んだ料理を、と腕を振るっても、

ひと目見るなり「おれ、カップ麺でいいや」と言い放つ。

挙句の果には「カレーはレトルトが1番美味い」と仰る。


離乳食が始まった頃は何でも食べた。

野菜でも果物でも肉でも魚でも、

食べられるものは全部、口に入れれば飲み込んだ。

それに、心配するくらいの量を食べた。

こいつの内蔵全てが胃なんじゃないのかと疑ったくらいだ。

あまりの食いっぷりに義母も

「何かの病気ではないのか。寄生虫とか…」

と、引き気味に検査を勧めていた。

なのに、離乳食完了の頃には偏食と少食が始まってしまった。


小学校に上がる前、このままでは給食で苦労するだろうと、

色々考え工夫をして偏食を直そうとした。

育児本や料理本もかなり読んだ。

なのに食べてくれない息子にイライラして怒鳴った事もある。

こうなるとせっかくの美味しい料理も台無しだ。

泣きながら小刻みピーマン入りチャーハンを食べる息子を見ながら、

私も味のしなくなった塊を飲みこんでいた。


ある日、実家の母に愚痴をこぼした。

すると母は、呆れた声で言った。

「何言ってるの?あなたもそうだったわよ?忘れたの?」


そうだった。

今の息子と全く同じだったわ、私も。

ふりかけで育ったと言っても過言ではないくらいの。

息子より酷かったかもしれない。


それがどうだ。今では野菜が大好きだ。

ピーマンもナスもブロッコリーも。

セロリは未だに苦手だが、結構何でも食べる事が出来る。

初見の料理にも抵抗はない。むしろ触手は伸びる。


なぁんだ。大丈夫じゃん。

偏食でも給食も何とか乗り越えたし大人になれた。


それでも食べて欲しくて、

小刻みピーマン入りチャーハンを作る日々は変わらない。

でも今は、眉間にシワを寄せ、

米粒よりも小さな超小刻みピーマンを苦労して避けている息子を、

ムフフ♡と意地悪に笑って見ている。

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