初恋
私が通っていた小学校はマンモス校で、
いち学年9クラス、ひとクラスあたり40人弱も居た。
なので一言も話したことがない同級生も未だに存在する。
学年があがり、クラス替えの後の席替えで初めて見る男の子が隣に座った。
その男の子はシャイなのか、私が嫌いなのか、
何日経ってもこっちを一切見てくれなかった。
話しかけても一言で返してくる。何も盛り上がらない。
早々に「つまらないやつ」と認定し、
早く次の席替えが来ないかと毎日願っていた。
結局、1学期が終わってもその「つまらないやつ」と仲良くなる機会もなく、
夏休みはもちろん会うこともないまま、2学期がスタートした。
さぁ!席替えだ!
今度は面白いギャクを連発するコウジ君がいいな…。
淡い期待を寄せたが、現実はそんなに甘くなく、
それどころか試練を与えられたかのように、
隣に座ったのは、またまた「つまらないやつ」だった。
「えー!誰か変わってよぉー!!」
と嘆く私を無視したまま、そいつは他の男の子とおしゃべりをしていた。
なおも試練は続く…。
5年生最大のイベント、2泊3日の宿泊学習も
そいつと同じグループになってしまった。
事前準備の段階で私の楽しい気分は半減していた。
グループ学習もカレー作りも夜間ハイクも、
そいつと一緒と思うだけで憂鬱だった。
いよいよ宿泊学習がやってきた。
仲のいい子と適当に話しながら、各工程が淡々と進んでいく。
「つまらないやつ」は相変わらず私を見ない。話さない。
だんだんイライラしてきた。
カレー作りの時にその気持ちが爆発してしまう。
「嫌いなら嫌いでいいけど返事くらいはしてよ!」
それでもそいつは黙って下を向いてじゃがいもを切っていた。
もうどうでもいいや、と私もそれ以上は何も言わなかった。
気まずい雰囲気の中、夜間ハイクが始まった。
1キロのコースをただ歩く。途中先生たちがお化けに扮して脅かしてくる。
夕前に降った雨のせいで足元はぬかるんでいた。
好きな子とグループになった子はキャーキャーはしゃいでいる。
私もコウジ君とキャーキャー言いたかったな、と少々拗ねながら進む。
と、思いもよらないところから先生が脅かしてきた。
ビックリした私はぬかるみに足を取られ転んでしまった。
ますます気分が沈む。もういやだ、帰りたい…。
泣きかけた私の前に手が見えた。
顔をあげると、あの「つまらないやつ」が居た。
への字口で手を伸ばしている。
「自分で立てる!」そう言って起き上がりかけた私の腕をそいつが支える。
足をひねっていたため、そのまま黙ってふたりで歩いた。
周りが冷やかしたが、それでも支え続けてくれていた。
「ありがと…」
ゴールした後に小さくお礼を言った。カレー作りの際のお詫びも兼ねて。
支えていた手を離したそいつは、黙って私を見ていた。
何か言いたそうだったが、他の子に呼ばれてすぐにどこかへ行ってしまった。
一度だけ振り返ったその顔は、
私に向けた初めての笑顔だったのかもしれない。
私を避けていたのは「好き」だったからだと知ったのはそれから数年後。
「好き」から「愛してる」に変わるのは更に数年後。
そして今、そいつは隣で豪快にイビキをかいて寝ている。
不思議だ。
あの時の「つまらないやつ」が今になって愛おしい。
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