I hope

愛は望んだ。穏やかな日々を。

それはとても退屈で安全で下らない。

なぜならそれは諦めだから。

望まないから傷つかない。


愛は望んだ。痛みの日々を。

それは赤くて柔らかくて尖っている。

ナイフひとつが往復切符。

見かけ倒しの危ない旅行。


愛は望んだ。ありきたり日々を。

それは普通で偉大で尊いらしい。

皆がそうだと言ってるもの。

きっと私も偉いのだろう。


愛は望んだ。誰かの痛みを。

流れる涙の透明さ。

それを見つめて一安心。

自分の姿が映っているから。


愛は望んだ。誰かの隣を。

二人は互いを見てはいない。

それでも一人よりはずっといい。

自分の影を見なくてすむから。


愛は望んだ。他人の理解を。

こんなに世の中理不尽だから。

アノ人が私の行いを認めないから。

無言の声を夜に呟く。


愛は望んだ。一人の世界を。

傷つけられるのが嫌だから。

私の黒い陰の中。

目の無い誰かが私を睨む。


愛は望んだ。穏やかな日々。

愛は望んだ。痛みの日々。

愛は望んだ。ありきたりの日々。

愛は望んだ。誰かの痛み。

愛は望んだ。誰かの隣。

愛は望んだ。他人の理解。

愛は望んだ。一人の世界。

愛は望んだ。愛は望んだ。愛は望んだ。


諦めの毛布は血に染まり痛みのナイフは錆付いた。

それでも愛は望んで望む。毛布を巻きつけナイフを突き刺す。

涙が溢れれば何も見えないから。痛みは心を黙らせるから。

何度も何度も繰り返す。何度も何度も繰り返す。


愛は望んだ。世界の終わりを。

ガラクタじみた身体の奥で心がわめくの止めないから。

愛は望んだ。望みが死ぬのを。

お前のせいでこんなに苦しい。


影が笑った。私の声で。

わたしはあなた。あなたはわたし。

わたしの重さはあなたの痛み。

死ぬまでずっと抱えて生きな。


認めようと拒もうとわたしとあなたは繋がってる。

影より深い心の底でヘソの緒なんかで繋がってる。

一度でいいから。わたしを呼んで。

あなたの弱い心のままに。あなたの覚悟がわたしの名前。


それはとても怖いこと。

そのくせ、たぶんありきたり。

だけど間違いなく特別で。

きっと何よりわたしが望んだことだ。


私は叫ぶ。


希望の産声が世界にこだました。

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