黒いものと声と饅頭と
…
……
………
黒い何か絡みつく感覚はある。
けど…っ…
…………っ…
……………っあ…
視覚、聴覚、嗅覚は全く効かない。
黒いものは俺の息の根を止めようと必死に
首に絡みつき、締め付けてくる。
(息が…くるしいっ…っ…)
必死に空虚に手を伸ばす。
何も無いのに手を伸ばす…。
すると…
”…きて…っきて…ぉきて…”
懐かしい声と懐かしい感覚。
でも、その声の主が誰だかが分からない…。
凄く凄く懐かしいのに、
思考を妨げるように、
黒いものが絡みついてくる。
その黒いものの中が追い討ちをかけるように
脳に直接語りかけて来る、というより
無理やり嫌な思い出を引き出して来ると
言った方が正しいのか。
じいちゃんの楽しみにしてた饅頭を食べて
激怒されたこと。
それから饅頭が嫌いになったと知りながら
あいつが饅頭を食わせてきたこと。
最初はたわいのないことだった。
でも、次第に、その内容は深く、深く胸の奥をえぐる内容へ変わって行く。
友人との喧嘩、
交通事故で右足を骨折した事…両親の死、
そして…
”…きて……っきて…、ぉきて…、
おきて…!起きて!うぇいくあっぷ!”
1番胸にとどめておきたかったことが
フラッシュバックする前に、
そんなあいつの声のおかげで、
黒いものの中から抜け出すことができた。
ゆっくりと目を開け周りを見渡すが…
誰もいなかった。
ふと、あるものが目に止まったときに、
おれはあいつの脳に入り込めたことを確信した。
それは、饅頭だ…。
そんなものか、なんて思うだろうが
おれらには大事なものなのだ。
だって、今の俺らの関係は、
饅頭きっかけで始まったのだから。
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