第4話 慢心は危険を招く
今回お話するのは中2らしく僕が粋がっていた頃のことです。
その頃の僕は様々な心霊現象に慣れ、むしろちょっと騒がしいなと思っていました。そして慣れていくにつれある事に気付きます。それは、近寄ってきた霊を撥ね退ける方法です。
完全に我流なのですが偶然発見したそれは”自分を1個の霊体として認識してテリトリーを築く”というものでした。肉体という器から滲み出るようにして一定の範囲のフィールドを占有することにより他の霊を弾き出すのです。
さて、何故霊と戦おうなどと思ったかというと、この頃直接肉体に接触してくる輩が頻繁に現れていたからです。
人間眠っている時が一番無防備だと言いますが、それは肉体と魂においても同じです。幽体離脱は睡眠中に起こることからも解るとおり肉体と魂の結び付きが弱くなっている時間なのです。そうすると僕のような現世に執着心が無かったり生命力が弱かったりする人間には肉体を奪おうとする存在が寄ってきます。
そんな訳で、寝ていると壁から手が伸びてきて腕や足を掴んで引っ張られるという現象が多発していました。もう向こうも実力行使です。
掴まれた箇所にはくっきりと指の痕のアザが残るし、安眠出来ないのは単純にストレスです。あと手首なんかを掴まれて引っ張られるとそれで体が動く筈もないので関節が痛いのです。肩とか肘とか。
決定的だったのは肉体ではなく僕本体の両足を引っ張られて半分ほど壁の中に引き込まれたことでした。
(あ、これこのまま壁に呑み込まれたら戻ってこれねーな)
と直感して無理矢理体の方を目覚めさせました。これに関しては本当に奇跡的にできたことでどうやったかは自分でも分かりません。しかしこの件で対策を講じなければならないと思いましたし、同時に自分と自分の肉体は別々の物なのだという事もしっかり認識できました。
自分の霊としての力を行使できるようになってからは寝ている時にもある程度の緊張感を保ち、何者かが近付いてくる気配を察知すると目を覚まして撥ね退けるということが日常になりました。自己防衛という意識はもちろんありますが、ゲーマーであり喧嘩が大好きな性分なのでむしろ楽しんでいましたし『俺TUEEE』という中2病全開な気持ちの方が強かったです。
そんな日々が続いて完全に天狗になっていた時にそれは起きました。
何者かが近付く気配でいつもどおりに目覚め、こっちへ来るなと撥ね退けようとします。しかしソレは怯む様子も無くなおも距離を縮めてきます。こっちも負けじと弾き出そうと出力を上げていた、その時。
「その程度で通用すると思っているのか」
と低い男性の声が間近で聞こえました。それは異様な程クリアでまるで肉声その物でした。思わずゾッとして声のした方へ目を向けると、そこには1人の男が立っていました。
カーキ色の詰襟に、同じくカーキ色のツバ付帽子。帽子には星がついていました。顔は帽子の影で見えません。
男はスッと刀を振りかざしました。電気も点けていない薄闇の中なのに刀身が鈍く光り、それを見た僕は
(ああ、もう駄目なんだな)
と何かを悟って諦めました。そして刀が振り下ろされるのとほぼ同時に意識を失いました。
ふと目を覚まして、目が覚めた事にまず驚きました。頭を動かすとちゃんと動きます。手も、足も。僕は何故か生きていたのです。
必死にあの時の記憶を辿ると、刀が振り下ろされた次の瞬間、僕に当たる寸前別の何かに当たる音と何かの影を見た覚えがありました。どうやら何かが僕を守ってくれたようなのです。それがいわゆる守護霊なのか別の存在なのかは知る術もありませんが、とにかく僕は寸での所で助かりました。
後々調べて分かったのですが、あの服装は日本兵の軍服でした。それはまぁ敵う訳がないな……と思うと同時に、相手の力量も測れないのに誰彼構わず先制攻撃をするのは自殺行為なんだな、と身をもって学んだ出来事でした。
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