7

(仰々しいBGM)


店長 フハハハ ハーッハッハッハ!

佐竹 うわーっ でたーっ!

匠  なんだ なんだこいつ!ミイラ男か!

佐竹 あーっ 店長だーっ 店長の全身に タオルが巻き付いてるーっ!

店長 丁寧な情景描写をありがとう フハハハハ 私は妖怪2mタオル この男の体は 私が完全に乗っ取った

匠  なんだ なんなんだこの状況は

店長 おい そこの木刀を持った若造

匠  あ?

店長 上空から見ていたぞ 貴様 私を退治しに来たそうだな 私に倒されるために今治までやってくるとは 愚かなる男よ

匠  ……恥ずかしくないのか お前

店長 何を言っている 私は誇り高き 妖怪2mタオルなのだ フハハハハ

良太 おい大ちゃん!なんか戦ってるぞ!

大輔 うわ本当だーっ みんな来いよーっ

子供たち えーっ なになにー?


(数組の親子連れのざわめき)


匠  くっ……囲まれた……

店長 さあ もう逃げ場はないぞ妖怪ハンターよ

匠  人を集めてどうするつもりだ

店長 この期に及んで見苦しい振舞いはしないとは思うが 念のため 保険を掛けさせてもらった あちらを見ろ!

佐竹 よ 妖怪ハンターさん すみません 捕まってしまいましたー

匠  店員……てか 親父!?

光昭 匠……

店長 あの二人は私の人質だ 貴様が逃げ出せば あの二人の首元に巻いたタオルが締めつけ とても苦しい思いをさせてやるぞ フハハハハ

佐竹 妖怪ハンターさん 大丈夫です このタオル いまはまだフワフワして温かいだけです!存分に戦って下さい!

匠  やめてくれ お膳立てをするな!

佐竹 さあみんな 妖怪ハンターを応援しよう!「がんばれ妖怪ハンター!」って言ってあげようね!せーの!

観客 がんばれ!妖怪ハンター!

匠  う ううー

店長 さあ 妖怪ハンターよ 覚悟を決めてこの私 2mタオルと勝負しろ!

匠  てめえ どうなっても知らねえぞ

店長 貴様のごときタダのニートに 負ける私ではないわ フハハハハ

匠  畜生 ちくしょう うおーっ!


(竹刀が風をきる音)


店長 おっと!

匠  うわーっ!


(匠の気合→竹刀が風を斬る音→店長が軽くかわす声 が数度続く)


佐竹 計画通りですね さすが店長 人をあおるのがほんとに上手い

光昭 あのう 店長さんは大丈夫でしょうか 息子は竹刀を持ってるんですよ

佐竹 ああ 大丈夫です あの人ね ああ見えてめっちゃケンカ強いんですよ


店長 ふんっ!


(濡れタオルが匠の顔をひっぱたく音)


匠  ぐっ…(悶絶して)つーーッ……

店長 ふはは 思い知ったか これが濡れタオルの威力だ!

匠  地味に痛い……

店長 おいおい かかってこい若いの

匠  (痛みをこらえながら)こいつ……


佐竹 店長 むかしボクサーだったんですって けっこういいところまで行ってたらしいですよ 本当かどうか分かりませんけど

光昭 し しかし もしものことがあったら

佐竹 大丈夫ですって それより心配なのは匠君のほうですよ


匠  はーっ はーっ

店長 どうした妖怪ハンター ずいぶんしんどそうじゃないか

匠  うるさい……

店長 情報収集などと抜かして部屋に引き籠っていたから 体力が無くなるんだ 残念だったな

匠  な なんで知ってる

店長 きちんと就職しておけばこんな目にもあわなかっただろうに 哀れな男よ フハハハハ

匠  うるさい うるさーい!

店長 はぁっ!


(竹刀が落ちる音)


店長 ……秘儀『タオル白羽取り』

大輔 すげえ タオルで刀を弾き飛ばした!

店長 今治のタオルの弾力があって はじめて成せる技だ

観客 おー


(拍手)


匠  ……なんだよ なんだよ みんなしてバカにしやがって なんなんだよ

店長 どうした もう終わりか え?もう終わりかよ 妖怪ハンターさんよ

匠  うるせえ黙れ知らねえよ 何が妖怪ハンターだよ 畜生 ふざけんなよ

店長 いや まんまこっちの台詞だけど

匠  お前らに何が分かんだよ クソが 消えろよ どうでもいいよもう全部

光昭 匠……

匠  笑えよ餓鬼ども 結局何もできねえよ俺は ちくしょう ちくしょう

光昭 匠!

匠  ……父さん

光昭 おまえ 何してんだ!

匠  ごめんなさい ……俺 もうダメだ

光昭 そこに妖怪がいるんだぞ!

匠  ……は?

光昭 そいつ!妖怪なんだろ! お前がやっと見つけた お前の敵なんだろ! お前がやっつけるんだよ お前にしか倒せないんだよ!がんばれ!匠!

佐竹 そうだよ妖怪ハンター いや 匠くん 君ならできる!やっつけろ!

大輔 がんばれ妖怪ハンター!

良太 がんばれー!

観客 がんばれー!がんばれー!

匠  なんだよ……なんなんだ 畜生

店長 ふん 無様なものだな妖怪ハンターよ 見ず知らずの他人ですら こんなにもお前を応援しているぞ ましてや(感動で声が裏返る)お父さんが どんな思いでお前の ぐすっ 戦いを観ていたか お前に おっ うーっ(泣く)

大輔 2mタオルが泣いてる!隙だらけだ!

佐竹 いまだ匠くん!

光昭 やっつけろ!

匠  ありがとうみんな ありがとう父さん!うおーっ!


(鈍い音)

(一拍遅れて 店長が地面に倒れる音)


佐竹 店長――――ッ!!

匠  や やった

佐竹 竹刀が!竹刀がコメカミにクリーンヒットした今!店長!大丈夫ですか!

店長 た 大したものだな妖怪ハンター この2mタオルに ここまで深手を負わせるとは しかし忘れるな 妖怪2mタオルはいつだって蘇るのだ この世に拭うべき 湿り気があるかぎり フハハハハ!ハハハハ!


(走り去る足音)


佐竹 店長どこ行くんですか!まっすぐ走れてませんよ!店長―!


(走り去る足音)


匠  ……追っかけるべきなのかな

光昭 匠

匠  あ 父さん なんで来たの

光昭 ああ 手紙見てな 追ってきた

匠  ……あの ごめん

光昭 勝ったな 妖怪に お前すごいな よくやったよ

匠  ……ありがとう


(拍手の音)


光昭 ああ皆さん ありがとうございます ほら匠 みなさんにご挨拶しよう

匠  あ ありがとうございます 握手?いや おれ そういうのじゃないので……ええ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る