【木の前】


大輔 なんだこれ バスタオル?


(茂みの揺れる音)


大輔 動いてる……どうなってるんだ……

店長 (低い声で)近づくな!

大輔 うわっ!

店長 それ以上 近づくでない

大輔 えっえっ 何だ!?

店長 驚かせてすまない 少年よ 君には私の姿が見えているんだね

大輔 嘘だろ タオルがしゃべってるの

店長 タオルではない 私は妖怪だ

大輔 妖怪

店長 そう 妖怪 2mタオルだ


(木の揺れる音)


大輔 2mタオル?商品名みたい

店長 なに 貴様 私をバカにするのか


(大きく木の揺れる音)

大輔 うわあ ごめんなさい

店長 分かればいいんだ ときに少年 どうして泣いているんだね

大輔 あのう メガネを落としちゃったんです お母さんに怒られるから 辛くて

店長 なるほど ふふ 人間らしい悩みだな ここで会ったのも何かの縁だ 私の体で涙を拭くとよい

大輔 え いいんですか

店長 私はタオルの妖怪だぞ さあ 存分に使うがいい

大輔 近づくなっていったくせに 失礼します うわあ ふわふわだあ

店長 ふふふ 驚いただろう

大輔 すごいや さすが妖怪ですね

店長 いや 私がふわふわなのは妖怪だからではなく 今治の職人さんの力だ

大輔 どういうこと?

店長 深く考えなくてよい それより少年 もう一つびっくりさせてやろうか

大輔 なに

店長 実は君のメガネは 既に私が拾っておいた 

大輔 えっ 本当に!?

店長 ああ 私は人助けが好きな 良い妖怪だからね

大輔 ……へー

店長 きみのメガネは向こう側にある赤いベンチの上だ 拾いにいってくるがいい

大輔 あ ありがとう!


(走り去る音)

(走って戻ってくる音)


大輔 本当にありました!ありがとうございます!……あれ?……飛んでいっちゃったのかな……ありがとうーー!!二メートルタオルさーん!!こうしちゃいられない 妖怪と会ったこと ブログに書かないと!


(走り去る音)


店長 よし 作戦成功だ

佐竹 危ないところでしたね ぎりぎり回収できました ていうか店長 すごいですね

店長 なにが?

佐竹 演技というかアフレコというか あの子供 すっかり信じてましたよ

店長 ああ おれ昔から得意なんだ 

佐竹 なんでタオル屋やってるんですか もったいないですよ 東京なんとかランドで働いて下さいよ

店長 勝手に上京させるなよ まあこれで プロモーション第一弾は完了だ

佐竹 小学生助けただけじゃないですか

店長 ここから2mタオルの存在が口コミで広がっていくわけだ 小学生から大人へ広がり 噂話はやがて伝説になるんだ どうだ 妖怪っぽいだろう

佐竹 まあ 確かに妖怪っぽいですけど

店長 これはあくまで第一歩だ あの子 ブログ書くとか言ってたし ここから2mタオルはきっと流行るぞ

佐竹 ほんとですか?


【匠の部屋】


(マウスのクリック音)


大輔 2016年9月8日 タイトル「本当にあった 妖怪のはなし」

匠  妖怪 妖怪だと!?

大輔 これは 本当にあった話です ぼくの住む町に妖怪が現れたのです その妖怪の名は 妖怪 2mタオル

匠  二メートルタオル?

大輔 2mタオルは公園にいました はじめは洗濯物が木にひっかかっているのかと思いました しかし その洗濯物は がさがさと動いたのです そっと近づくと ちかづくな!と大きな声でどなられたので ぼくはびっくりしました

匠  意志を持っているのか

大輔 でも 二メートルタオルは良い妖怪でした 体で涙を拭かせてくれました とてもフワフワしていました そのうえ二メートルタオルは 僕のメガネを見つけてくれました 人助けが大好きな 良い妖怪なんだよ と 自分で言っていました 変だなと思いました

匠  ふん!詭弁を弄しやがって

大輔 メガネをぶじに拾って戻ると 二メートルタオルはもういませんでした 二メートルタオルはとてもいい妖怪です ぼくはもう一度 二メートルタオルに会いたいです おわり

匠  まずいな……この小僧 完全に魅入られてやがる 袖すりあうも他生の縁だ 救いに行ってやるとするか!!

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