習作 幸せの果実

@Motoki_Sho

短編

「さて、問題はこの果実を誰がとるか、だ」

四人向かい合ってる中で、一番大柄な男がそういった。

「食べると末代まで幸せになれる果実。

 自分で食べてもいいし、子供に食べさせてもいい。

 なんなら、売ったってかまわない。

 そういう取り決めでしょう、僕たち」

四人の中で、一番線の細い男がそういった。

「そもそもとりきめっていうのがさ。

 荒れ狂う海を渡り

 雷雨の中空を飛んで 

 火の山を越えて

 高原まで行かなきゃなんなくて、

 それで組んだパーティじゃん。

 そのときは他に奪われたくなかったから

 早急に組んだけど、まさか本当に手に入ると思わなかったしね。

 分け前を決めてなかったよね」

四人のなかで、一番小柄な女がそういった。

「あのー、でも。

 めでたくこうしてひとつだけゲットできたわけですし。

とりあえずはよしとしましょうよ」

四人のなかで、一番背の高い女がそういった。

「やはりここは俺がもらっておこう。

 この話を最初に持ってきたのも俺。

 このパーティを組んだのも俺。

 海をわたったのも俺だ。

 ここは当然俺がもらうべきだ」

四人の中で、最も我が強い男がそういった。

「それをいうなら、嵐の中飛行機を飛ばしたのは僕です。

 その論点で語るのはナンセンスです。

 平等じゃない」

四人の中で一番、合理的な男がそういった。

「あたしも、火山を安全に通り抜ける道を作るのに貢献したし。

 なんなら、木から切り取ったのもあたしだし。

 それに、あたしにはおなかをすかせた兄弟がいるし・・・」

四人の中で一番、貧相な女がそういった。

「私だって高原でのサバイバルに力を貸しました。褒めてください。

 家族のことを持ちだしたら、キリがないでしょう」

四人の中で一番、器用貧乏な女がそういった。

「いやいや。この中で一番勇敢で年上の、俺がもらうべきだ」

四人の中で、一番傲慢な男がそういった。

「いや、これを食べるものは、未来を見据えて・・・」

四人の中で、一番怪しい男がそういった。

「あーそれ一理ある!

 未来を考えるといいよね!」

四人の中で、一番若い女がそういった。

「あれ、意外ね。あなたならもっと合理的に判断すると思ったのに。

 あれ。もしかして。

 あなたたち、できてるわね!!

 それでグルになって・・・。

 許さない!許さない!絶対に許さない!!」

四人の中で一番、疑り深い女がそういった。

「なに!お前たちそうなのか!お前、俺が最初といっていたではないか!」

四人の中で一番、男性経験のある男がそういった。

「いや、ぼぼぼ、ぼ、僕は・・・」

四人の中で一番、そういった経験の少な”かった”男がそういった。

「えー。あたしそんなんことないし。いちゃもんつけないでくれる?」

四人のなかで一番、したたかな女がそういった。

「キー!キーィィッィイッィ!!!

 嘘つき、嘘つき、嘘つき!」

四人のなかで一番、ヒステリーな女がそういった。

 争い合う四人。

「ええいこんなもの!」

四人の中で一番、腕力のある男が腕を振るった。

 転がり落ちる果実。

「あ、ああ」

四人の中で一番、果実を望んでいた男が声をあげる。

 果実は谷を転がる。

「果実が!」

四人の中で一番、自分のことしか考えていない女が悲鳴を上げた。

 果実のそばにいるリス。

「やめて!その果実を、栗をとらないで!」

四人の中で一番、目のいい女が呼びかける。

 栗にちかづくリス。

 リスはしめしめ、といった感じで栗を咥えて行ってしまう。

あとには、ただ四人の男女が残された。

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