第2話 ひとつめのなみだ
私は一つ目。
生まれながら片目が潰れたまま
この世に産み落とされた子供。
<ひとつめのなみだ>
奇形の私がなぜ今まで生かされていたのかは
物心ついた時に理解した。
私が生まれたこの村では一つ目の子供は
10歳を迎えた頃に山のカミサマの生贄にされるらしい。
なんでもそのカミサマは産まれてくる子供を
一つ目にする呪いをかけているそうだ。
カミサマなのに変なの。
ある大人は、
カミサマの国では戦争の真っ最中で
その戦力になる使い捨ての人間を作ってるのではないかと言っていた。
その推理が1番しっくりきた。
確かに出来損ないの私が死んでも
誰も困らないし親も泣かない。
むしろカミサマの役に立って
光栄なことだと思う。
私はカミサマの役に立つために
生まれてきたんだ!
そう思うと私の人生って案外悪いものでも
無いのかもって、心が少し楽になる。
もうすぐで私は10歳になる。
自分の運命は悟っていた。
だけど、どうしてだろう。
一つしかない目が涙に歪んでしまう。
恐怖とも悲しみとも違う。
これはきっと悔し涙なのだ。
一つ目以外健全なこの体は
生きることを望んでいた。
納屋に鎖で繋がれない生活。
両親と笑いあえる家。
一緒に草花を愛でる友達。
私はただ普通が欲しかった。
カミサマなんて本当はどうでもいいの。
どうしてただ片目が無いだけで、
他人の都合で人生を終わらせなきゃいけないの!
明け方の空気に大きく響く鎖の音は
生贄の最後の抵抗だった。
今日の夜が更けてしまった。
ついに私はカミサマの祠の前に投げ出された。
酷く傷んだ木材の建物は少しの風でも
ギシギシと鳴っている。
中に入るのを躊躇しているとどこからか
ドスン、ドスン、と地鳴りの様な足音が
こちらへ早足で向かってくる。
覚悟は出来てない。もう諦めた。
私の人生は今日で終わる。
どんな抵抗をしたって、
カミサマには適わないだろう。
突然、月明かりが消えて視界が暗くなった。
目の前に現れたのはおよそ5mばかりの
大男。
大きい以外の特徴は無く、
着物も村の男達が着ているような
極めて普通のものだ。
これがカミサマの正体なのか。
想像していたのと丸っきり違う。
これではまるでただの化け物ではないか。
化け物。頭が大男をそう認知したせいで
恐怖が再び体を占領した。
一つ目が恐怖に固まっているのをよそに、
大男は案外優しい口調で一つ目に語りかけた。
『この村の血筋は、
一つ目の子供が生まれやすい。
アイツらはそれを俺のせいにしているが
全く見当違いだ。
元はと言えばアイツらの先祖が受けた
呪いにある。
アイツら先祖はな、ここら一体の動物たちを娯楽目的で殺しまくっていたんだよ。
その殺された動物たちの怨み辛みが呪いになり、
今こうしてその脅威を奮っているわけだ。
あの村が滅びない限り、
一つ目の子供は生まれ続けるだろう。
その度に俺のせいにされるなんて、
たまったもんじゃないぜ。
なぁ、協力してくれないかい?
俺はあの人間共を滅ぼそうと企んでるんだよ。
一人残らず殺せなくたって、
この山に近づけせなければいいんだが。
当然その後の生活も保証させてもらう。
俺は妖怪だが人間は食べない。
今までに祠に置いていかれた一つ目は
俺の仕事を手伝いながら一緒に暮らしているんだ。
どうだ悪い話じゃないだろう。
復讐も出来るし、これからまだまだ生きて行けるんだぜ?』
一通り喋り終わった大男は胡座をかき
私の返事を待っていた。
さっきは遠くて見えなかった顔が
今ははっきりしている。
大男も一つ目だったのだ。
そしてとても優しい表情で私を見つめていたのだ。
もう、心は決まった。
私は目で合図した。
彼は嬉しそうに笑った。
『そうか!ありがとな!
仲間が増えてみんなも喜ぶと思うぞ!』
大きな手でくしゃくしゃと頭を撫でられた。
少し痛い。でもなんだか落ち着く。嬉しい。
胸がむず痒くなるこの感覚。
こんなに暖かな感情初めてだ。
私は一生この人についていく。
私に普通を教えてくれた存在。
私にとっての神様は
お喋りで着物が地味で、だけどとても優しい一つ目の大男。
大男の肩に乗って
朝日で少し薄くなった山の形を
一つしかない網膜に焼き付ける。
昨夜の涙とは違う、
幸せの雫が少女の頬を伝ったのでした。
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