百鬼夜行

吉岡 柑奈

第1話 ぼくは鬼の子








どうしたんですか?こんな夜中に。



…あぁ、昼寝しすぎて、

寝れなくなってしまったんですね。



分かりました。


では、昔話をしましょうか。



今日はいつもの絵本とは違う特別な話です。




眠くなったら、寝ていいですからね。




それでは。




* * *



むかしむかし、ある村に、


とてものんびりしたオニが住んでおりました。



そのオニは 300年ほど前に

神様に導かれてやってきたのです。




神様は言いました。



この村には 昔から小さな災いが続いている。

お前をカミサマにしてやるから

この村の人々を守るのだ。



オニは人間が大好きだったので

喜んでカミサマになりたいと申し出ました。




神様はつぎに 言いたしました。




いいかい、くれぐれもカミサマの前の姿がオニだったなんて言わないことだ。

そのことを誰かに喋ったら、

お前はカミサマではなくなるからな。





そう言って神様はオニを

カミサマの姿に変え、消えていったのです。





カミサマになったオニは

毎日がしあわせでした。



大好きな人間と共に歩む時間が

とても楽しく、すっかり自分がオニだったことさえ忘れそうなくらいでした。





ある日、オニは ある女の子に 出会います。



16さいくらいの女の子。

名を ちえ と 言いました。


となりの村から こちらにひっこしてきた

三人家族の とても美しい娘でした。



村人が増えることは、友達が増えるということ。

オニと村人達は快く、家族を歓迎しました。



オニはちえが村に早くなじめるように

毎日遊びにさそったおかげで

ちえがオニに心をひらくのは、

そう遅くはありませんでした。



オニもちえに答えるように

いろんなことを話しました。




村の子どもたちのこと、

小川の魚のこと、

きれいなはなが咲いてる場所。




そしてかつてオニであった自分のこと。


オニとちえにはお互いに惹かれあい、

いつしか恋仲になったのです。



誰かに喋ったらカミサマではなくなる。



オニは神様に提示された約束なんて、

幸せな日々を過ごす内に

すっかり忘れておりました。







愛するカミサマがかつてオニだと知った

ちえはそれでもいいとオニを受け入れ、

誰かに言いふらすこともなく

今まで通りオニと接しました。



暫くたった頃から、

オニはある違和感を覚えたのです。



ちえや人間を見ていると、

とてもお腹がすくのです。



カミサマになったので食事はおろか、

空腹さえ感じないはずなのに何故だろうと

ひとり頭を抱えていました。




オニはまず魚や野菜を食べてみました。



しかし、どこか満足できない。


なにかが物足りないと感じ、

次に食べたのは森で捕まえた兎の肉。




魚よりは空腹が満たされるのを感じました。


これに味を占めたオニは次々と動物を襲い

より満足感が得られそうな肉を探し始めたのです。





1日の大半を食事に使っていたので、

いつしか恋人のちえのことさえ、

思い出せなくなっていたのです。







ある朝、ふと我に返ったオニは

風に運ばれてくる美味しそうな匂いに気付きました。




匂いにつられて歩いていくと、

そこは自分が守っていた村でした。




村を見たオニは驚きました。

記憶にある村の風景と目の前の村が

同じものとは信じたくありませんでした。



オニが長年守り続けていた村は

全て破壊し尽くされていたのです。


家の壁は壊され所々に赤い血が飛び散り

鉄の臭いを放っていました。


地面には元は人間だったであろう肉片が

ぐちゃぐちゃになって転がっている。




突然のことに頭の理解が追いつかず

オニはただ呆然と肉片を見つめることしか

出来なかったのです。


一つ、血なまぐさい湿った風が吹いた時

あの子の事を思い出しました。


オニは走りました。

大好きだったあの子の家に。



途中、何度か柔らかい赤いものを踏んでも

なりふり構わず走りました。


夕暮れの赤い日差しが後ろから

オニを照らします。




前より走るのが早くなった気がする。

踏み出す度に地面が揺れている。

手も足も赤い。頭にも何か違和感がありました。


全部気のせいにしたかった事を

影は饒舌に語りだします。



オニはやっと気づきました。


僕はカミサマから、


オニに戻ったんだと。



災厄の根源に成り果てたオニは

『悪いモノ』を村に引き寄せてしまったのです。


『悪いモノ』は次々とこの村の人々を喰い散らかして行ったのです。



やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、

目を閉じて振り払おう首を振りますが。

残影がくっきりと瞼に張り付いて離れません。



オニはちえの家で足を止めます。


三人家族の幸せそうだったあの一家。

もうすぐ四人家族になる予定でした。



あの一家だけ他の家より凄惨な光景が広がっていた。





父親はツルハシで顔面を潰され、

母親は手足を潰され腹を胎児ごと喰われていました。

ちえは、頭蓋骨と髪の毛だけを残し

命をおとしていました。




頭が真っ白になった。

鬼は声をあげて泣きました。


自分の犯した罪がどれだけ重いのか

理解できるからこそ気が狂いそうになるでさ。



オニは思いました。

せめて、せめて綺麗に喰ってあげよう。

償いになるとは到底思わない。



けど、無残な形であの世に行くのは

あまりにも悲しすぎる。と。




オニは食べた。


愛するちえと大切にしていた村人を一人残らず食べ、村を離れました。



鬼の胃袋は今までに無いほどの

満足感に満たされていました。



人間取り込んだオニはやがて本物の鬼になり理性を失い、無差別に人を襲います。




いつしか人間に退治されることでしょう。



でもそれで良いのです。



一人で死ねない鬼は

早くみんなの所に行きたかったのですから。








僕は鬼の子。





生命を喰い荒らす、呪われた存在。





僕は鬼の子。




自分を化け物だと認めたくなかった

哀れな鬼の夢。





* * *




おしまい。


この話は自分の身分を弁えて行動しよう

という戒めですね。


どうでしたか?

最後まで聞いていたようでしたけど。



え?重すぎる?

寝る前に聞く話じゃないって?



すみません、なに分不慣れなもので。



次からもっと楽しいお話にしますね。




それではおやすみなさい。


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