二重の屈辱

 さて、この私シノダを被告とした裁判が間もなく開廷される。


 訳の分からない事に判事ら曰く原告はアトランティスの安寧秩序であり、余所者というだけでその権能を侵犯したものとして裁かれるとのことだ。


 当たり前だが、弁護人など付きようも無い。


 要するに裁判の体を成した私刑ということだ。過去に何が有ったのかは知らないがこの国ではそれ程までに余所者が厄介なのだろう。


「正義の下で蛮族に裁きを!」

「やっちまえ!」「殺せぇ!」

 

 全くどっちが蛮族なのか知れたものじゃない。……どうやらこの連中には司法権の恣意的行使が悪であることを……いやそれどころか裁判が神聖な場という意識すら欠如しているようにも思える。


 こいつらにとっては法廷の傍聴などかつて米帝にあった電気椅子による公開処刑と同様に単なる残虐ショーに過ぎないのだろう。


 全く嘆かわしいことである。いや、モラルが退廃しているのはどこも同じか。私はこのザマから戦後の我が母国の文化的荒廃を思い出さずにはいられない。


「これより被告に判決を言い渡す。この外来人は死刑に処す」


「異議なし」「右に同じ」


 何たる出来レースか。私は驚きを通り越して呆れた。この連中の手に掛かって死ぬのは些か癪ではあるが、悪法もまた法なりで郷に入ればナントヤラだ。私の命はここの法に委ねられたのであるから私一人でどうこうできるものではない。

 

 私は第二の生を賜って直ぐに死ぬことになったが決して犬死ではない。私の死は公開処刑として罪状と共に多くの人間に記憶されるからだ。


 如何に強大な権力や権威を以てしても一つだけ決して奪えぬ物がある。

 それは正義だ。

 こうして一部の権力者の横暴によって死刑が執行されるということは市民たちもでっち上げによりいつ処されるか分からない恐怖と隣り合わせにいるということだ。これは市民達が立ち上がるのに十分過ぎる程の正当性を与えるだろう。


 ならばこの野蛮な因習を断つのは結託した市民であるべきだ。丁度今の私のように耐えざる屈辱が累積しそれが革命の原動力となったとき自然と現在のブルジョアは淘汰される。


 覚悟は出来た。一日の内に二度も死んだ人間は私くらいであろう。


「忘れてはいないだろうか? 本日は国王陛下の戴冠20周年式日である。今日という日を血で汚すのも余り気が進まない。吾輩は被告を留置してまた日を改めるのが良いと考える」


「貴殿の言うことも尤もだ。祝日に死刑を行うと国民も不安になるだろう」


 何だ私の覚悟に横槍を入れるつもりか。生殺しなんて真似は止めて殺すのならさっさと殺してくれ。


 そんなことを思案している内に衛兵に連行されて独房の中にぶち込められた。

 薄汚れた部屋だが休める為に必要なものは最低限揃っている。今日は色々と疲れた。私は木製の寝具に横たわり目を瞑った。

 これが夢だとしたら覚めて欲しいものだ。


 ―――それから

 朝


「おい! 起きろ」


 私は顔に冷水をかけられて目を覚ます。最悪の目覚めた。どうやら昨日の出来事は夢ではなかったらしい。


「喜べよ外来人。陛下から恩赦が下ったぞ」


 なにィ恩赦だと! この私が唾棄すべき支配階級から温情を受けたというのか。

 自分の一存で殺すだの生かすだの全く何処まで勝手な連中なのだ。


「ただし、無罪放免という訳にはいかない。お前の刑は自由身分剥奪に減刑となった。今日からお前は奴隷だ」


 奴隷か……それも良かろう。これは運命に違いない。この時代は私という革命指導者を欲しているのだ! 見ていろよ、王権よ。這い上がってやるぞ。私を生かした事を必ず後悔させてやる。

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