第31話 決別
ここはいつもの部屋。最深部10層の広大な空間だ。迷宮の出入り口までの散歩が日課に加わったが、それ以外は生活にあまり変化はない。アンナと入れ替わりの形となったエラは、いつも適当になにかやっている。
「新技を考えましたわ。『ウニ・ストライク!!』」
一体どこに隠し持っていたのか、大量のウニが私にザクザク突き刺さった。微妙に痛い。
「あれ、あまり効いていませんね?」
エラが不思議そうに効いた。
「いや、ウニがドラゴンの鱗に刺さるだけでも驚異だ。人間がくらったらタダでは済まんだろう」
当然だが、ウニのトゲは刺さると痛い。竜鱗に刺さるような勢いで飛んできたら、ひとたまりもなく退散するだろう。また、妙な技を……。
『アルテミス、聞こえ……ますか?』
雑音混じりではあったが、アンナの声が聞こえてきた。無論、思念通話だ。
「どうした?」
私はわざと声に出して応答した。瞬間、エラの動きが止まった。
『これから……査問です。場合に……よっては、もう2度と思念通話すら……出来ないかもしれません。最後に、連絡を……では』
「おい、アンナ!!」
答えはなかった。
「エラ、これからアンナは査問らしい。そんなに凄いのか?」
エラの手からウニが落ちる。
「泣く子も黙る査問は、どんな高位の神でも泣き散らすほど厳しいものです。とても、アンに乗り切れるとは……」
……。
「やはり、私に関わるとロクな事にならんな。エラ、お前ももう十分働いただろう。天界へ帰ってもお咎めはないと思う。私のためだと思って、早急に帰って欲しい」
これは本心からの願いだ。今なら間に合う。致命的な事が起きる前に……。
「あなたがそれで良ければ……。1度人を知ってしまうと、とても孤独には耐えられないですよ?」
「……」
孤独は私の友達のようなものだ。何を今さらという感じではあるのだが、今の私に耐えられるか……自信はない。しかし、不幸になる者をこれ以上は増やしたくない。
「……全く、馬鹿ですわね。残念ながら、あなたは人を不幸にできません。そんな力は持っていませんわ」
エラが笑った。そうかも知れんが……。
「それに、まだ任務は終わっていませんわ。あなたをこの迷宮から完全に開放する。それが、私の役目です」
エラはきっぱり言い切った。私をこの迷宮から完全開放か……先は長そうだな。
「実は最終段階の術はもう完成しているのです。解呪できないなら『術そのものを書き換える』のです。ウニばかり弄っていたわけではありません」
恐るべしエラ。いつの間にそんなものを……。
「ただ問題がありますの……」
「問題?」
私は表情を暗くしたエラに聞いた。
「これは黒魔術の応用ですの。複数人で使うのはいいとして……あなたの解呪と同時に、術者全員が命を落とします。ただでは終わらないのが黒魔術です」
エラの声に、私はなにも言えなかった。冗談じゃない。そんなの1つも嬉しくない!!
「そんな術なら、私が自ら死ぬ。もう少しマシな方法はないのか?」
思わずエラに厳しい口調で言ってしまった。
「これが一番マシな方法ですわ。私、マリア、アルミダの合成魔法をあなたに対して使う。マリアやアルミダはもちろん、私も多分命を落とす。それだけの呪いなんです。あなたに掛けられているモノは」
どう返事していいのだ。これは……。
「……とりあえず保留だ。さすがに即答は難しい」
「でしょうね。よく考えて回答してくださいませ」
私は思わず天を仰いだ。迷宮の闇はどこまでも深かった……
「色々考えたが、やはり没だ。そんな呪術を使ってまで、私は生き延びようとは思わない」
私はエラに言った。
「あら、あなたが奪ってきた命に、少し追加されるだけですわ。今さら綺麗事は言いっこなしです」
エラのこの一言は、私の心を深く抉った。なにを言っても言い訳にもならない。呪いだろうとなんだろうと、私は無数の命を屠ってきたのだ。確かに、なにを言っても綺麗事になってしまうだろう。
「失礼、少し虐めすぎてしまいましたわ。大丈夫です。ちゃんと対策も考えてあります。これは相談になりますけどね。あとは、皆さんが揃うまで、この件は保留にしておきましょう」
マリアはともかくカシムたちは、気まぐれでここを訪れる。冒険者なのだから、その行動を阻害する事は出来ない。
「さて、私はちょっとやる事がありますので、少し迷宮の外に出てきます。すぐに戻りますので……」
私はハイハイとばかりに無言でエラを見送った。
しかし、これがエラとの決別となるとは、私は全く予想すらしていなかったのだった。
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