番 外  勝負

番外編


 空にはたくさんの同胞が集まっていた。人間が付けた地名は知らないが、どこかの国の上空だという事だけは分かっている。

 それにしても、今日は集まりがいい。特に申し合わせたわけでもないのに、数百の同胞がそれぞれのペースで旋回を続けている。

 ……これは、始まるな。

「さて、トップは譲らん!!」

 私がつぶやくのと、唐突に同胞たちが一線になって、一気に高速飛行に入るのは同時だった。

 フン、来たか!!

 私も風を掴んで急加速し、先頭に向かって猛烈な速度で迫っていく。目的地はない。トップが飛ぶのをやめた地点がゴールだ!!

 地上から見たら、さぞかし壮観な眺めだろう。無数の同胞たちが、同じ点を目指して空を突き進んでいるのだから。

 私はあっという間にトップ集団に追いつき、先頭を飛ぶ同胞に向かって突き進む。暗黙の了解で攻撃行為はなしだ。そんな野暮な真似はしなくとも、私の翼は誰にも負けない!!

 私が真後ろに迫っているのを感じ取ったか、トップの同胞がいきなり急旋回した。甘い!!

「私から逃げられると思うな!!」

 その真後ろにピタリと張り付き、私はトップをひたすら追い立てる。苦しくなったか、トップは急降下して複雑な地形を描く谷間に突入した。なに、問題無い。

 谷間を最大速度で飛び抜けた時には、いつの間にか私とトップの一騎打ちになっていた。……面白い。その翼を見せてもらおうか!!

 複雑な動きで私を何とか引きはがそうとしているが、ナメてもらっては困る。その程度の動きなら赤子でも出来る!!

 消耗が見え始めたトップの同胞。そろそろ仕掛けるか……。

 私は急旋回ざまにトップを追い抜いた。これで、私がやめたところがゴールだ。しかし、まだまだ。この程度で終わらせるつもりはない。

 ここに来て、思わぬ伏兵が現れた。私の上から覆い被さるようにして、巨大な同胞が追い抜いていったのだ。別にコースが決まっているわけではない。大きくショートカットしたのだろう。他の同胞にも次々に追い抜かれて行く。油断したな。不覚……。

 私たちは負けず嫌いしかいない。私も同様だ。現在7位。これでトップが止めたら終わりだが、ついてくる者がいれば止めるわけがない。完勝しか考えていないはずだ。

「さて、面白くなってきたな」

 私は高度を少し上げ、強い追い風を掴むと一気に加速した。そして、さきほどのお返しにトップの前に上から滑り込んでやる。そして、さらなる加速をかけて引き離しにかかったのだが、なかなかしぶとい。結局5人ほどの同胞が団子になって、ひたすら先頭を叩き合う激しい戦いになった。

 ……なかなかしぶといな。それでこそやり甲斐がある!!

 ちょうど先頭になった瞬間、私は急降下をかけて思い切り加速をかける。眼下は海。海面に激突寸前で無理矢理水平飛行に移る。衝撃波で派手に海水を叩き上げてしまったが、多分人間には害はなかったと思う。……多分。

 稼いだ速度を有効に使い、私はひたすら飛ぶ。同じ事をしてついてきた同胞は3人。距離はまだある。このまま力の限り飛ぶまでだ。

 しかし、しぶとい。距離が全然変わらない。こうなったら、世界を何周してでもケリをつけてやる!!

 得るものはない。強いて言うなら、自己満足だけだ。しかし、我々はそういう生き物だ。そこに勝負があれば、勝ちしか狙わない。

「そろそろか……」

 背後をちらりと振り向くと、ついて来ている者はない。よし、勝ちが決まった!!

「ふぅ……なっ!?」

 そこには「先客」がいた。「トップが飛ぶ事を止めた時、そこがゴールである」。やられた!!

 どこを飛んできたのか分からないが、全くノーマークの同胞がそこで優雅に旋回していた。我々には同胞がどこにいるか、ある程度把握する能力があるのだが、間違いない。ここが「ゴール」だ。

「はぁ、やられたな……」

 私はいつもこれである。詰めが甘いのだ。他の同胞たちも続々と集まり。これにて空のレースは終了となった。

「やれやれ、万年2位か。何が悪いのだろうな……」

 私の呟きに答えてくれるものはいない。当たり前だがな……。

「さて、縄張りに帰るか。結果はともかく、いいレースだった」

 やはり空はいい。気持ちが高揚してくる。

 こうして、私は本来の住処に戻ったのだった。


 そう、これは遠い昔のお話し。今からずっとずっと昔の……。

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