肉体系魔術師がいてもいいと思うんですよ。え?お前みたいな魔術師はいない?あ、はい。
市場で金髪ロールのために水筒や携帯食料を買った後、私達は狩場に出かけた。
問題は無かったかと言われればもちろんあった。金髪ロールがバックパックどころか荷物入れを何も持っていなかったり、さらにお金すら自分では持っていなかったり。
なのでそこら辺全て揃えるように市場に出たのだが、上記の最低限のものを買った辺りで金髪ロールが飽きた。今すぐに行かないのなら私一人でも行くという金髪ロールの言葉に押され、私達は外に出ることになった。中年男が必要最低限のものを優先して買っていたのは、もしかしたらこのことを予想していたのかもしれない。
ちなみにお金は中年男が出していた。妙に金払いがいいと思ったが、まぁ私には関係無い。どうせ明日には見ない顔だ。
「さぁて。そこそこ歩いたところで一つテストといこうか」
街から出てしばらく歩いたところで中年男が大げさに宣言した。
「さっきギルドの自由依頼の掲示板で、採取する植物を見せたよな。ここらへんは植物が豊富だから目的のものもあるはずだ。記憶を頼りに取ってこい」
中年男の言葉になるほどと思って行動を開始しようとするのだが、例のごとく金髪ロールが問題発言を行う。
「見てないわよ」
「あ?」
「だから、草花の話なんて興味なくて見てないって。なんで冒険者が植物採取なんて地味なことしないといけないのよ」
金髪ロールは当然の摂理を語るように淡々と話す。中年男は片手で額を抑えて深々とため息をついた。
「嬢ちゃん。有名な冒険者の物語を読んだことがあるかい?」
「もちろんよ!おし…家の中で色々読んだわ!オススメはウーサー=ドナイルね。どんな敵も一撃必殺の剣の達人よ!」
「ああ、それなら俺も読んだよ。でさ、そういった冒険譚の中には、ドラゴンとか悪魔を倒す話だけじゃなくて、伝説の花や種を探す物語だってあっただろう?」
「…確かにあったわね。でも今回のはただの野良の草花でしょ?」
「そりゃこんなところに伝説の植物何か生えてねぇよ。でもどこにでもある草花も回収できないで、どうやって伝説の植物を探せるんだ?」
「む、なによ。草花の採取なんて楽勝よ」
若干論説に無理があるような気がしたが、中年男の言葉は金髪ロールを焚き付けるのには十分だったらしい。
ちなみに二人が話してる間に、視界内にある目的の植物は私があらかた回収している。足元から小指ぐらいの太さの【闇縄ダークロープ】を出して引っこ抜く。コツはわざと根を残すように雑に抜くこと、そうすると次生えてくるまでの期間を若干短くできる。ちなみに根が大切な植物もあるので注意が必要だゾ。
そうとも知らずに、元々依頼書も見ていない金髪ロールは周囲に目を光らせる。
「これね!」
「それは見た目が綺麗なだけの花ですよ」
「じゃあこっちね!」
「それはただの雑草」
「…分かった、記憶にあるわ。確かこの白い花が傷薬に使う花だわ!」
「残念。それは傷薬になる花に偽装した麻痺成分のある花です。白の中に黒い模様があるでしょう?ちなみに毒素が弱過ぎて市場ではあまり売れません」
金髪ロールが植物に向かう先々で間違いを正す。すると金髪ロールは引きちぎった雑草を持ったまま、プルプルと体を振るわせる。
「さっきから貴方は偉そうに何なのよ!そう言う貴方は取らないの!?」
「もう取りましたよ」
「いつ!どこで!そんな嘘ついてもすぐ分かるんだから!!」
「証明手段ならありますよ。ほら」
そう言って後ろ手で回収しておいた植物を放り込んだ袋の中身を見せる。ついでに中年男も覗いてきたので、そちらにも見やすいように広げる。
「…坊主、いつの間に取ったんだ」
「さっき話してる間に。闇魔術があればこれぐらいできますよ」
えっへんととりあえず胸をそらしておいた。ちなみにもちろん【闇縄】はオーバーテクノロジー(?)だ。冒険者をやっていく以上、どう頑張っても【闇玉】以外の闇魔術が使えるのは隠せないだろうし、基本的に三位ぐらいまでなら自重する気はない。何かツッコまれたら謎の師匠に教わったことにでもしよう。まさか悪魔の体を乗っ取って、無理やり知識を奪ったなんて言えない。
…我ながら意味が分からん。
「ふんっ!何よ。草むしりができる程度でいい気にならないでよね!」
金髪ロールは酷く不満気に鼻を鳴らした。おかげで何か言いたげな中年男の質問を回避できたのだから、使いようによっては悪くない生き物なのかもしれない。
「冒険者ならば剣を振るうべきだわ!ええ。剣を振るうことが真の冒険よ!」
そういいながらスラリと腰元の剣を抜く。その動作は驚くほど綺麗で、だからこそ色々残念な気持ちにさせられる。
「それだけってわけにもいかないが…。確かに狩りは野生相手だろうが魔物相手だろうが大切だからな。よし。次は生き物が多いところに行ってみよう」
雰囲気を取り持つように中年男は言うと、次の場所に足を向ける。戦うのが楽しみな金髪ロールや、逆らう気のない私はそれに従うのだった。
…あ、根こそぎにならない程度に途中途中の植物は回収したよ?貴重な落ちてるお金だからね。
中年男が向かった先は見晴らしのいい森だった。私達と同じ目的なのか、見習いや駆け出しに見える冒険者を何人か見かけた。
初心者の狩場の一つである森。特徴は先程までの平原以上に植物や動物の多様性及び数が増えるが、代わりに危険を伴う魔物の数も増えること。森を熟知した魔物の動きは厄介で、下手をした初心者が囲まれて死ぬ事故が時折起こる、冒険者のふるいの役目を果たしている。ちなみに村時代の私の狩場だ。
確かにここなら金髪ロールの望む対生物戦が行えるだろう。実際に先程から魔物こそ出ていないものの、何回か野生動物を見つけている…のだが。
「何よ何よ何なのよ!なんでさっきから逃げるのよ!!」
「いやそりゃ剣もった嬢ちゃんが近寄れば、警戒心の強い草食動物は逃げるだろうさ」
冷静な中年男の返しが気に入らないのか、金髪ロールはブンブンと剣を振り回す。危ないので止めて欲しい。
はぁ、と私が深々とため息をつくのを、中年男に目敏く見られていた。
「我関せずみたいな態度だけど、このままだと坊主の評価にも響くぜ」
「う、やっぱりですか?」
「いくらお試し感覚とはいえ、初日は草花だけで生き物系ゼロって言うのはなぁ。風属性でもいれば楽なんだが」
風属性はこういった狩りが得意な属性だ。投げナイフや弓矢などの遠距離武器の扱いに長けているので、遠くから仕留められるし、独特な直感や観察力に魔術を使った探知まで出来る。
「一応探査の真似事なら出来ますけど」
「本当か?」
「ええ、一度立ち止まってもらえれば。普通に足跡やら食べかす探してもいいんですけどね」
埒が明かなそうなので私がそう言うと、興味を持ってもらえたのか中年男が金髪ロールの足を止めさせた。
「坊主。やってみろ」
「分かりました」
お許しが出たので、私はその場で肩幅程度に足を開くと、両手を下げて体の力を脱いた。
「…何やってるの?休んで無いで早く行くわよ」
金髪ロールが不思議そうに言う。それもそうだろう。きっとこの場で私がやっていることを見えてる人間はいない。
今私は全身から目に見えないほど細い【闇糸ダークストリング】を周囲に張り巡らせている。魔物や人間。それに野生動物も、強い魔術などであれば反応を拾うことができる。だから魔物や動物相手の不意打ちに魔術は使いにくいのだ。他にも単純にある程度大きな声で詠唱しなければならないという弱点もあるのだが。
しかしこの程度の極々か細い魔術反応であれば、誰にも察知することは出来ない。その上光を吸収する闇色の糸は、光を浴びて反射することもない。弱点は耐久度。歩きながらやったら木や草に引っかかって切れるし、絡まる恐れもあるのでこうやって落ち着いた状態で立っていないと使えない。
索敵範囲は大体人間状態で五十メートル。ゾドム形態で百メートルといったところ。どちらにしても触覚しかない糸は探索のために足跡やら食べ後やらを詳しく調べていくので、それ相応の時間がかかる。風属性の探知に比べれば能力は低い。
十メートルほど探知の糸を伸ばした時だろうか。糸に反応があった。それも偶々野生動物の体に触れたとか、何らかの痕跡を見つけたとかではない。何かが勢い良く【闇糸】を破りながら突き進んできているのだ。
方向は今の私の向いてる方向を基準に十二時方向。つまり正面。数は三つ。…いや、二体が左右に割れた?これは。
(囲まれた、か)
さらに糸を伸ばしながら囲まれたことを告げるために口を開こうとしたその時。
「ちょっとなんなのよ!さっきから黙って!おちょくってるの!?」
金髪ロールがそんなことを叫びながら近寄ってきた。
もう一度言おう。【闇糸】の耐久率は低い。
今までは金髪ロールと中年男がいるところは、一回迂回させることで反応を回避していたのだが、金髪ロールが近づいてきたせいで彼女の周りの糸が全部千切れてしまう。そのおかげで前方を探索していた糸が無くなり、一匹の動向が掴めなくなってしまった。
―――ええい畜生。そもそもどう考えても狙われてるの自体金髪ロールが騒いだせいだろうに!
相手はこちらの場所を完全に知っている動きをしている。探査能力に優れてるやつなのかもしれないが、何にしても金髪ロールが騒いだせいで位置がバレたのは間違いない。
最初の一匹だけ他よりもワンタイミング早く攻撃してくる。事前までの情報を考え、頭の中で咄嗟に位置関係を思い浮かべる。
直後、金髪ロールの背後の茂みが音を立てて揺れた。
「邪魔!」
左手を伸ばして、こちらに向かってきている金髪ロールの左肩を掴むと同時に、右手で懐に隠してあるナイフを握る。
茂みから狼型魔物が跳び出してくるのと、金髪ロールを後ろに倒してナイフを投げるのは全くの同時だった。
「ギャン!」
回転するナイフが狼型魔物の眉間に突き刺さる。前までの技術もあるが、単純に身体能力が上がって投擲威力も上がっている。
これで一匹は仕留めれたが、まだ安心することは出来ない。ガサリ、と茂みの僅かな揺れを見ると、私は知らないうちに叫んでいた。
「そっちに一体!」
虚飾を取り払った短い一言に中年男は素早く反応して腰から剣を抜くと、一瞬にして戦闘体勢を整えた。
さすが熟練の冒険者というところか。あれならば心配無いだろう。
意識を左側に潜む気配に向ける。先程中年男側の茂みの動きは目で確認したが、同時に左側からも音がしていた。
ナイフを投げた直後の右手に力を込め、【闇玉】を形成すると、それをそのまま野球のアンダースローみたいな感覚で左側に投擲する。
後から考えれば、行動はほぼ一瞬の内に終わっていた。
左から飛び込んできた狼型魔物の頭を吹き飛ばし、ついで目を向けると中年男は同じく狼型魔物の攻撃を見事としかいいようのない動きで受け流していた。
だがまだ戦いは終わっていない。中年男が受け流した魔物は、自らを受け流した相手を警戒するように睨みつけている。
アレこそ盾役の水属性の鏡と言うべきか。魔物は見事に隙だらけだ。
左足に力を込め、スライドするように移動して魔物に突っ込む。これは雷属性特有の移動方法の模倣技だ。
突っ込んだ勢いのまま右足を魔物の腹に入れ込む。無防備だった魔物にはまともに攻撃が入り、足を伝って骨が折れていくのが分かる。
体重の軽い魔物はあっさりと数メートルほど飛び、地面にベシャリと倒れ込んだ。その口元からは血が溢れている。
―――それでもまだ死んでいない。
右手で銃の形を作ると指先に【闇玉】を形成する。
それを倒れている魔物の頭蓋に向かって撃ち込む。完全に頭が潰れるのを見て、今度こそ終わったと判断する。
ふぅ、と一息入れる私の視界が、ふいに中年男の視線と重なった。
「お前…本当に六属の無い魔術師なのか?」
その一言を聞いて、なんとなーく自分のやったことを思い浮かべる。
最初のナイフ投擲に、雷属性歩法の真似事。ついでに蹴りとかやってたっけ。
…うん。
「れ、練習すればどうにでもなりますって」
とりあえず私は誤魔化すことを決定した。
ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている? @Makai13524
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