ギルドの説明って若干作品ごとに違って面倒だよね。なら簡単にしろ?それはそれで面倒なんだよ。
盛大な音をたて、周囲の人間の目がギルドの入り口に向かう。
そこに立っていたのは金髪ロール…実名エリザ=クロスソード。昨日宿屋の主人に聞いた。
ちなみにこのクロスと言うのは人間の王家の名字に付くものらしい。ギルド登録で名字まで名乗らなくてよかった。
彼女は視線が集まってるのを確認するように、ゆっくりと周囲を見渡し、私達を見て視線を止めると、一直線にこちらに向かってきた。
「どうやらちゃんと揃ってるようね!」
開口一番お前は何様だよとツッコミたくなる。いや、王女様なのだろうが。
「ええ、集合時間は九時でしたからね」
嫌味百パーセントの言葉で穏やかに問い詰める。
「そうね。私を待たせなかったことは褒めてあげるわ」
「…ところで今何時何分ですっけ?」
「そんなの自分で時計を見なさいよ」
「…集合時間九時でしたよね?」
「それがなによ?」
やばい!胃に穴が空きそう!吐き気とめまいがする!!
仕方がないのでド直球で攻めることにする。
「なんで遅れたんですか?」
「準備に手間取ったのよ。察しなさいそれぐらい」
畜生殺したい!!
お、落ち着けー私。落ち着けー。どうどう、ストップストップ。
口どころか全力で手が出そうな気分をなんとか宥める。その上で改めて目の前の人物を見据える。
見事な金髪をロール状のツインテールにした、整っているんだけど目つきが怖い少女。勝ち気とか強気とかそういう類ではないのだ。完全に素の状態で、相手を睨み殺さんとばかりに鋭い目をしている。その姿は完全に昨日宿屋で見た絵に描かれていた人物と同一だった。
実を言うと見習いにしてもらう約束はともかく、その後のお付きの冒険者になって欲しいという約束は、完全に私個人がしたつもりだった。つまりマンツーマンというやつだ。何故かこの女が、厚かましくも当たり前のように同じパーティになっていたときはどうしようかと悩んだが、こうなってしまえば不幸も幸運の内。
今日一日。見習い研修の予定を狂わせないために一日だけ我慢するが、帰ってきたら速攻で衛兵に引き渡してやろう。私を煩わせた償いは文字通りその身で果たしてもらおう。
心の中に燻る黒い感情を見せないように、ニコニコ笑顔で隣の席を引いて座ることを促す。
ふんっ、とまるでこちらの行動が遅いと言わんばかりの態度で椅子に座る金髪ロール。目ざとく中年男の目の前にあるカップを見つけると、すぐに店員を呼んで紅茶を頼み始めた。
「さぁ!冒険に出かけましょう!」
「え、今頼んだ紅茶は?」
「あら、いつもの癖で頼んじゃった。なら仕方ないわね」
こいつの頭のなかには豆腐でも詰まってるのだろう。私はそう確信した。
私が冷ややか視線を向ける中、中年男が声を上げる。
「まぁどっちにしても今すぐ出るってわけでもないけどな」
「なんでよ!」
中年男の放った言葉に速攻で食いつく金髪ロール。
「別に今日出ないって訳じゃない。分かるか?俺たちは今から仮にでもパーティを組むんだ。だとしたら互いの腕…までは分からないにしても、属性が何でどこまでできるのかぐらいは知っておかないといけない」
中年男の言葉にピクリと僅かだけど私は反応する。予想はしていたが、嫌な展開だ。
「ふん。私一人いれば十分だわ。全くギルドって面倒くさいシステムを採用してるのね」
概ね同意だったが、たぶんお前みたいなヤツのせいで導入されたんだと思う。
「へぇ。じゃあ嬢ちゃんは何属性の何位ぐらいまで持ってるんだい?」
中年男は金髪ロールの言葉を聞いてるようで聞いてない。自分の都合がいい用に喋ると、金髪ロールはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに胸を張って答える。
「聞いて驚きなさい。闇の火、雷ともに二位。二つを合わせれば三位の力があるわ!」
字面だけ見れば、まぁ凄いだろう。その年齢で二位なら十分将来有望だ。
しかし三位なのは恐らくあの上段からの一撃のみ。そしてそれに頼りまくってるせいで、どう考えても普通の二位より戦術幅が狭くなって弱体化している。
昨日数十分稽古しただけでもそれぐらい分かってしまう。闇の火、雷といえば対魔物戦で最高火力を誇る戦力なのだが、文字通りにそのための鉄砲玉に使う意外使い道はなさそうだ。…むしろ鉄砲玉になってくれるならましか。彼女の場合マガジンの中で暴発してこっちまで怪我しそうである。
「そうかい。俺は光の水単体だが一応三位の腕がある。長いことこの職業やってるしな」
中年男の言葉に金髪ロールの顔が露骨に歪む。
それもそうだろう。彼女にとっては年齢など関係なく、自分はトップの凄い人間なのだ。あっさりと自分より優れてると言われて気分を害したのだろう。これだから金持ちは。
「なによ。水属性なんて。攻撃もできない癖に」
彼女じゃなければ殴られても良さげなセリフをあっさり言う金髪ロール。いや彼女だから殴られないって時点であれだけどね。
「はは、じゃあ火と雷で仲間を守れるのかい?」
中年男は余裕の返し。大人の余裕が見えますね。
「私が一人で全部倒してしまえば、守る必要なんて無いわ!」
だからその自信はどこから来るんだと問いたい。
私は二人の会話を傍観者よろしく見守っている。すると。
「で、坊やの属性はなんなんだい?」
当然のごとく中年男が話をこちらにふってくる。
うん確かに当然だし、避けては通れない道なのだが、できることなら言いたくない。いや、私個人の気分で言わないなんてことはもちろんできないし、今後も同じような問題はつきまとってくるだろう。初めのここで躊躇している場合ではないのだ。
「闇…です」
「え?闇の…すまん聞こえなかった。なんだって?」
私の言葉に中年男が聞き返してくる。きっと彼は、こっちの声が小さくて聞こえなかったと考えてるのだろう。それは間違いで、間違ってないのは男の耳の方だ。聞こえなかったのではなく、私が言っていないのだから。
「だから闇なんです」
「いやだから闇の何属性なんだ?」
「闇の…無、です。無属性です」
もっと早くにはっきりと言えよと私だって思う。思いはするのだが、感情というやつは恐ろしい。
何よりこの言葉は私が私自身に対して無能のレッテルを貼ることと変わりない。一体誰が六属のない役立たずと組みたいと考えるか。
実際に私は私のことを不良債権であると考えている。
そりゃ人間体だって四位程度の闇魔術は使えるし、身体能力だって準三位ぐらいはある。とはいえそれはスペックの話であり、傍から見る分では評価は全く別のものになる。
まず見た目が子供だ。一応筋トレとかはやってるんだけど、それでも決して筋肉質とはいえないひ弱な子供。色々な都合上剣の一本も持っていないのがそれに拍車をかける。
魔術の方も一般に知られている闇魔術は一位の『闇玉』しか無い。実態はかなり色々応用の効くものなのだが、逆に言えば器用貧乏。色々できる魔術も、他の六属で補おうと思えばできるっていうか、上手い人間と比べれば完全に下位互換にあたる。そもそもできることが多すぎて説明しきれない弱点がある。
さらにトドメとばかりに、私がそれらの見た目とは違うスペックの話をしても、誰が聞いたって子供の法螺話にしか聞こえないのだ。私だって相手の立場だったらそう思う。闇魔術の応用性だって信じる人間はいないだろう。
いざ使ってみても他に上位互換のいる、今までの六属とは違う戦い方だから連携に組み込むにも新しい戦術が必要。こんな人間を進んで使用する人間がいるなら、そいつはたぶん縛りプレイが大好きなマゾ野郎に違いない。
…悲しいことにソロプレイにはもってこいなところが悲しい。初代のロ○の勇者の気持ちが今なら分かる。
「そうか…闇だけ、なんてこともあるのか。その格好だと魔術師よりなのか?」
「はい。そうです。闇魔術だけは使いまくってきたので、色々できますけど」
一応フォローの言葉を入れてみるが、中年男の顔は晴れない。
金髪ロールは他人などどうでもいい、問題は私が強いことである。とでも言わんばかりに沈黙を通している。まさかその態度をありがたいと思うことがあるとは思っていなかった。
「条件の四つ目ってのももしかして、これのことを隠すためか?だけどなぁ。どっちにしろ…」
「お願いします!」
私は立ち上がって頭を下げる。
彼の言うとおりどっちにしろ、だ。黙っていてもいずれ他の人間とパーティを組むなら知られるし、それより前に黙っていても実力が備わっていなければ冒険者になることもできない。
「六属がないハンデは分かっています。その上で実際に使えるかどうかで判断して欲しいんです」
ともすれば自意識過剰ともとられかれない言葉。だがここで中年男にお付きを拒まれたらどうしようもない。闇しかない私を見てくれるお付きが他にいるか怪しいし、最悪六属無しというだけで不合格にされかねない。
「ああ、いやそれは大丈夫だ。一回約束した以上期間中はしっかりと付き合うさ」
私の誠意が通じたのか、男はなんとか認めてくれた。
良かった良かったと思いながら席に座ると、丁度金髪ロールの頼んだ紅茶が届いてきた。
金髪ロールが紅茶を飲んでいる間にも、中年男は先輩として冒険者の心構えや、基本的な狩場のマナーなどを教えてくれる。その中に所持品の話も出たのだが…。
「携帯食料」
「無いわね」
「水筒」
「持ってないわ」
「汗を拭ったり剣の汚れを取る布」
「必要なの?」
「狩場の地図」
「歩けばどこかに出るわよ」
「もしものときのための夜具」
「なんで私がそんなかさばる物を持たないといけないのよ」
こんな調子だった。
それもそのはず。金髪ロールはどこからどう見ても剣と防具意外の何も持っていない。前衛が嵩張るものを持たないというのは一理あるかもしれないが、彼女の場合単純に重たい荷物を持つというのが嫌なのだろう。
全体的に中年男も頭を抱えている。彼の立場に居なくて良かったと心から思う。あ、ちなみに私はちゃんと持ってるよ?
「それじゃあ行くわよ!」
自分が紅茶を飲み終わると堂々と宣言する金髪ロール。なぜお前が仕切っている。
中年男は頭を掻きながらも、一応話すこそは話したのか席から立ち上がる。
「じゃあ依頼の話でもするか」
そう言って依頼ボードに行く姿を見て、私は何か違和感を感じた。
「勘定はいいんですか?」
「え?あ、最初にちょっと多めに払ってたんだ。店員も注文の時に持っていかなかっただろう?」
何故か中年男は焦るように頭を掻きながら告げる。
そうか、こっちだと注文の時に金を受け取るのが普通なんだった。もちろん食い逃げ対策。まぁボールペンも無い世界ではお勘定一つ書くのも大変だしね。
それにしても最初に多く渡してた?金髪ロールも当たり前みたいに頼むだけ頼んでたし。どういうことだ?
…ま、いっか。
「お前らも知ってるだろうが、依頼には冒険者の階位に合わせて一位から七位までの難易度がある」
男は依頼板の前に立って私達にそう説明する。
時間的に依頼板の前は今人も少なく、誰かに迷惑をかけるようなことはない。
「だがまあ基本的に六位や七位の依頼なんてものはない。もしあるとすれば謎の魔神が出現したときぐらいかね。少なくとも俺は見たことがねぇな」
それぐらいの情報なら私はもちろん知っているのだが、先輩からの言葉を聞き流すわけにはいかない。ザ・真面目顔という表情でその話を聞く。
…のだが、横に立つ金髪はガン無視して依頼板を眺めている。
はぁ、と中年男はため息をつく。きっと説明しても無駄だと思ったのだろう。
中年男は横にいくつも連ねられている依頼板の、左側から二つ目にある依頼板の前に移動する。
「これも分かってると思うが、まだ見習いのお前らは一位の依頼までしか受けられない。正式に冒険者になればかなり自由になるが、今はこれがお前らが受けれる仕事だ」
中年男の言葉を聞いて、上に一位依頼と書かれている依頼板の内容を見る。
○○草の採取。草食系魔物の討伐。飼い猫探し。浮気ちょう…って探偵か!
後半の方は置いといて、雑用の鏡みたいな内容が書かれている。報酬はそこまで良くはないが、普通に人一人が生きていくならできないでもないかな。冒険者としての雑多な出費を考えれば微妙だけど。私の場合これぐらいの内容だと武器も防具も要らないからなぁ。
「と、一応見てもらったはいいが、今日やるのはこっちだな」
そう言いながら中年男はもう一つ左の掲示板を指差す。
そちらは上に自由、と書かれていた。
依頼内容は…。
「一位の依頼と被ってるものがありますね。単体の値段だと一位依頼の方が高いですけど」
「そうだ。見ての通りこっちの依頼は誰でもいつでも自由にすることができる。ギルドは冒険者から貰った素材を色んなところに売る卸業もやってるから、基本的にどんな素材でも買い取ってくれる。だがこの依頼の中にあるものはその中でも需要が高いもので、要するに取っておいて価値が高いものだ。素材なんてのは狩りしてたらすぐ持ちきれなくなるからな。これをみて取捨選択するってことだ」
「なるほど。一位の依頼と別れてるのはなんでなんですか?」
「一位依頼の方は売り手が直接冒険者に頼んでるものだ。緊急に必要だったり、普段より数が必要な時に値段に色をつけて依頼するもんだ」
ふむふむと頷いてみせる。実は知ってるんだけど、確認の意味も込めて中年男に尋ねる。
「でもそれなら自由じゃなくて一位依頼の方を受ければいいんじゃないですか?」
「そこが難しいんだよな。採取ってのは時の運があるし、量が多い場合嵩張って他のものが取れないことがある。もし失敗したらペナルティがあるのは当然。特にお前らみたいな見習いにとってはキツイだろう」
「そうですね。初依頼で失敗なんて嫌ですし。なるほど分かりました」
「おう。それに今日は狩場の雰囲気に慣れるのが目的だ。まぁ依頼の方もいつかはやるだろうから、それまで待つことだな」
「これにするわ!」
私と中年男がそんな風にいい感じに話し込んでいると、突如今まで何してたのかも分からない金髪ロールが声を上げた。
「なんだ嬢ちゃん?」
「これよ!この依頼こそ私の初めての依頼に相応しいわ!」
叫ぶ金髪ロールの手には、既に依頼の紙が握られていた。
そこに書かれてるのは討伐系、確かこの魔物は高山地帯に住むやつだっけな?前に乗ってた馬車が襲われて掃討した記憶がある。
何にしても紙の角に三位依頼と書かれてるのを見逃さない。
「貼りなおしてきなさい」
謎に母ちゃん口調になる中年男。もちろん反発する金髪ロールの言葉を聞きながら、私は巻き込まれないように一歩後ろに下がるのだった。
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