幼馴染という言葉には破壊力があるわけでして、何が言いたいかというと皆くっころは好き?
魔術を習うようになってから一週間ほどが経った。
あの【闇玉】を放ってから一週間。その間じいさんから何を習っていたかと問われれば、【闇玉】を作っていた。ひたすら。延々と。いやほんと何の誇張もなく。
私の今のステータスを表すとするのならば、ルプス=クロスロード。属性闇の無属性。使用可能魔術【闇玉】。という入荷したての魔法使いみたいなステータスで表すことができる。最近のRPGだったら一週間もあれば十分世界ぐらい救えるのに、私のこの酷い有様はなんなのでしょうか?
と、言ってもこれは別に私やじいさんが授業をサボっているというわけではなく、これには酷くどうしようもない理由があるのだ。
とてもとても簡単な話で、この世界の魔術の仕組みというのは基本的に六属を中心に巡っている。一位魔術はとりあえず魔術を使える第一歩で、それに六属の属性を合わせた二位魔術を使えるようになってからが魔術の本番だと言われているほどに。
そしてそうなってくると話は簡単で、六属を付けた二位以降の魔術が主流ならば、一位魔術のそれも闇属性単体でしかない魔術など研究する人間がいないのだ。つまり世界は酷く苦しい現実を私に突きつけてくる。闇属性単体のみで行使できる魔術は、現状この世界において【闇玉】以外ないのである。炎の花を食った配管工のおっさんぐらいしか技のバリエーションがないのだ。
一応じいさんなどは『闇魔術というものがある以上、闇属性の二位以上の魔法もあるはずじゃ』などと言ってくれたが、残念なことに言ってる当人も【闇玉】以外の闇魔術を知らないらしい。八方塞がりである。どうせ塞ぐんだったら美人を配置して欲しい。全く別の意味になるけど。
だったら魔術の授業はそれで辞めるのか、となるとそういう話でも無かった。この世界で魔術師としての力を高めるのは、イコールとして自らの位階を上げることにつながる。そして位階を上げる方法は簡単で上位の魔術を覚えていけばその分階位も上がるというものだ。簡単に言うとメ○の次にメ○ミを覚えるようなもの。二位魔術を一定以上覚え扱えるようになれば立派な二位魔術師の完成だ。
しかしじいさん曰く新しい魔術を覚える以外に、もう一つ自らの位階を上げる方法がある。それは例え下位の魔術でも、その威力や精度が上位の魔術相当まで高いものであれば、魔術師は上位の位階を名乗っても良くなるという話だった。先程の例え話で言うと○ラをメラ○レベルの威力に上げるまで延々と魔力値を上昇させるということ。あれだね、今のはメラ○ーマではないってやつだ。やっぱり大魔王は偉大なんだね。
【闇玉】しか使えないのならばその【闇玉】を磨き上げればいい。そういう発想の元、私はじいさんに言われるまま延々と【闇玉】の訓練を繰り返した…。
………少なくとも名目上は。
判断基準をよく知らないから断言はできないけど、どう考えても私の【闇玉】の威力は初日の段階で一位相当のそれを飛び越している。どうしてそんな風に言うかというと、この一週間じいさんが私に教えてくれたのが、力の上げ方では無くむしろ反対の力の制御の仕方であるということが大きい。
もちろん上位に上がるためには制御も必要なのだろうが、どう考えてもじいさんはそれを名目に私の魔術を抑制させてるように見える。
まぁ分からないでもない。何と言ってもなんとなく放った一撃で、ある程度樹齢がありそうな木をまるまる一本弾き飛ばしたのだ。あんな殺人球(直球)を子供が持つなんて恐ろしい。というか私自信恐ろしい。傍から見れば三歳児が拳銃を手に持って離さない状態と変わりない。
下手に取ろうとして駄々をこねられればそれだけで人死にがでかねない状況。ならばせめてセーフティと扱い方を懇切丁寧に教えるのが建設的というものだろう。
何度も言っている通り私もそんなに殺傷力を求めてるわけじゃないし、今の環境はそこそこ楽しいと思える環境だった。なにより、魔術の訓練は私に副産物的な面白い研究条項を教えてくれたのだ。
初めて魔術を使った時。忘れもしない。私はあの呪文を詠唱したとき、自らの本体とも言える魂に妙な干渉が行われた事に気づいた。どういうことかと考える暇も無く直感的に『妙な干渉』が行ったとおりに魂を変化させてみたら、なんと詠唱も無しに【闇玉】は発動した。この事実は単純な威力や技術やら以上に、私が魔術に興味を抱くのには簡単すぎるほどの出来事だった。
この胸の高鳴りをどう説明すればいいのか。ゲームをやってるとき偶々強力な攻撃を見つけたような、具体的に言うならエンジニアが釘打ち銃の釘か電撃を放つ工夫を思いついような。もしくはあれだね、とりあえず始めてみたアプリゲで始めの十連で最高レアが当たって、しかもそのキャラがゲーム内ランキングで最強キャラだった時みたいな。
とにもかくにも元からスマホ一つ無い娯楽の少ない世界であって、だったら元は学者でも無ければ勉強も最低限を目指して努力した干物系女子でもちょっと研究に勤しんでみるわけですよ。
というわけで【闇玉】を中心に(というかそれしか魔術が使えないんだけど)魔術の研究を始めた私。研究はじいさんの授業の時以外にも隠れて、後半からは隠れもせず堂々と【闇玉】の練習に偽装しながら行った。
じいさんもわざわざ三歳になってから魔術をさせ始めたし、授業の最中再三危険って言われたからわざわざ最初は隠してたんだけど、明らかに前日と魔術の制御能力が違うからね、当たり前にバレるよね。
でもまぁじいさんもあまり注意もしなかったので、開き直って授業中以外もじいさんの目があるところで研究研究。皮肉なことにその作業の繰り返しは、物心ついてから自意識を保つまでのトライアンドエラーに似ていた。
度重なる研究の末、私は魔術に対して一つの到達点に至った。
魔術というのはなんということもない、人間が手を動かすのとも、頭のなかで今日の献立を考えるのとも変わりのないただの一つの現象に過ぎないのだ。一つだけ、たった一つだけ違う点を上げるとするならば、現象を起こしているのが《魂》という普通の人間には観測も使用もできない代物だっただけのこと。
《魂》が引き起こす現象…
その事実に気づいた時、私はなんとなく納得してしまった。思い出すのは考えるのも鬱陶しい糞鳥との会話。魂は通常の物理現象から外れているため、通常ではない結果を引き起こすことがある。つまりそういうことだ。
これが元の世界だったらポルターガイストだの宙に浮かぶ火の玉だのと言われるのだろうが、どういう経緯を辿ったのかは知らないがこの世界ではそれが《魔術》という体型に形作られていた。
私が持っている魔術の教本においても、魔術事態は広く知れ渡って使われてるのに、内情については詳しく知られていないのも理解できる。先程も言ったとおり魂は少なくとも前世の科学力を持っても観測もできなかったもの。魔術という技術があるとはいえ、魂の観測にまでは至れていないらしい。私だって本体が魂という特異性が無ければ気づかなかっただろうし、さらに気づいた上で説明しろと言われれば無理だと答える。この感覚は私にしか分からない。
ならば魂を観測もできないような人間が、どうしてそこから引き起こす魔術を行うことができるのか。それを説明するためには改めて魔術というものの説明をしなければならない。
基本的にこの世界で魔術を行使するために必要なのは《呪文》、もしくは魔的な細工、例えば呪文などが書かれた《魔術書》。それにそれ自体が魔的な力を帯びる《魔道具》。さらにその魔術書や魔道具の根幹に関わっていることも多い、図形や呪文で形作られる《魔法陣》。
幸いじいさんは魔術書や魔道具も幾つか持っていて、それらの道具には魔法陣が書かれていることもあって研究対象には事欠かなかった。どころかじいさんは簡易的なものなら作れると【闇玉】の魔道具まで作ってくれたので、実践をすることまでできた。例え神様を死ぬほど恨んでもじいさんだけは信仰しようと思うほどに、私の中でじいさんの高感度が上がった。じいさんじゃなければ抱かれてもいい。
冗談はともかく確かめて得れた実験結果は、それら全てが外部から強制的に魂を操作する、という共通点を持っていることだ。私からしてみればなるほどと思うしかないが、それだけ言って実感できる人間も少ないだろう。
魔術…魂現象を発揮するためには、魂がただ魂としてあるだけではダメだ。人間の体で言えばこれは寝っ転がってるだけの状態と同じ。魂現象を発揮するためにはそれから手足を動かすように魂の操作が必要なのだ。
例える対象を変えてみよう。ここに石油があるとしてそれだけでは車は動かない。車を動かすためには石油をガソリンに精製する必要があるし、ガソリンを使うために車などに容れる必要がある。
呪文や魔導書が行うのは同じこと。ただの魂を魂現象を行使できるように改造し、そして実際に行使するまでの過程を全て行う。ちなみに魔術を講師する際には人によっては、同じ魔術でも若干呪文が違ったり、用途によって若干の変更を加えるらしい。上位魔術の中には下位魔術の増強版だったりするものもあるという話も聞いた。
これは先程の例えに合わせると精製の方法を変えたり、使い方を変えるようなもの。ガソリンを車に使うか、火炎瓶の燃料に使うかの違いとでも言うか。
もちろんながら魂を外部から強制的に改造するというのは、それ相応の代償が必要であり、魂は肉体や精神ともつながっているため痛みなども起きる。魔術行使の難易度というのは、この強制的な改造に耐えられるかどうかということだろう。実際に呪文で魔術行使を行って、その上であえて強制的な改造に逆らってみたら魔術は発動しなかった。
そうそう、そういえばそのことを知る過程で一つ面白いことに気づくこともできた。あまりにも当たり前だと思って気づかなかったのだが、この世界には魔術はあっても魔力、MPといった類のものは無いのだ。魔術を使用すれば相応の《消費》があり、それは身体的や精神的なものとされているが、これは前述のことで証明ができる。つまり魂の改造による疲労のことだ。
そしてこの結論は私に一つの有意性をもたらすこととなる。自らの魂を自らの意思で改造することができる私は、この強制的改造による疲労を受けない上、呪文などに頼らずとも魔術を使用することができるのだ。しかもその上魔術の細かい細工もお手の物。このことはこの世界の一般住人に対してアドバンテージを得ることができるだろう…いやだからって戦う気は無いんだけどね?
だが同時にこれらの研究は私に一つの決定的事実を叩きつけることとなる。
皆様は属性という話を覚えているだろうか。属性が魔術に深く関わっている以上、属性も魂に関与しているのだろうし、事実私は確証はないがその結論を掴んでいた。
魂と一口に言っても、きっと人間にとってその形は違う。いくら魂が主体だからといってそれが結局どんな形をしているかも分かっていないので、どう違うのかと言われれば悩むのだが、それでも人それぞれで違うのは確定的に明らかといえる。
魂の形が違えば魔術行使の際の改造の度合いも違う。酸性のものからアルカリ性のものを作るより、中性のものからアルカリ性のもの作った方が早いのと同じである。そして改造の度合いが違えば発する痛みなども大きくなり、そうなれば魔術行使の難易度も変わってくる。恐らく自分の属性と違う魔術も不可能ではないだろうが、”実機で再現可能”という言葉ぐらい疑わしい。人間はT○Sさんにはなれないのだ。
じいさんが言ってた属性には家柄や性格などが関わっているという話も、魂は肉体にも精神にも関わっているのだから道理だ。若い頃は属性が定着していないというのも、若くて明確な魂の形が出来上がっていないということだろう。
つまり、つまりだよ。既に十八年を過ごし成人した魂である私に新しい属性はつかない。無属性である理由もなんとなく想像がつく。なんてったって前世は魔術なんて一切無い世界にいたし、無神論者で心霊番組を見る目的は、どう番組が映像を改造してるのか確かめるのが趣味だった私に、魔術的な属性なんてモノがつくはずもなく。
結論を言おう。私は魔術の才能に溢れながら、魔術の素養が一切無いらしい。
一体どこの誰がこんな世界に送り込んだのだと声高に叫びたくなる。これなら超文明の世界で光線剣片手にフォースだの叫んでた方がまだマシだ!神様もその使いを名乗る糞鳥もまとめて焼却炉に送り込んでみんなみんな廃に返してやりたい。ほーらごらん。神様だって死んだら廃になるんだよ?とか言ってやりたい。
…ともかく、これ以上研究しても多くのことはわかりそうにないし、なにより研究材料の大本が【闇玉】しかないからやりにくい。そしてこれ以上やったらダークサイドに堕ちてコーホーコーホーいう羽目になりそうなので研究は一旦止めることにした。幸いなことに今日からは剣術の稽古が始まる。この世界の剣術は元の世界の剣術と違うらしいし、調べたらなにか面白いことが分かるかもしれない。それに体を動かすのは単純に気が紛れる。
そんなこんなを考えていると剣術の先生がやってきた。表に出て確かめてみると見覚えがある。確か魔物狩りのメンバーに居た人だ。
簡単な挨拶の後早速剣術の稽古は始まり、インドア人間の私は運動の苦しみを知ることとなる。
稽古の内容は初日なので特に難しいことはせず、走り込みなどの軽い基礎力強化。そして木剣を使ったちょっとした型の稽古などを行った。実にシンプルかつ分かりやすい。特別話すことと言えば、先生なのだから敬語がいいかなと思って使ってみたら、先生に笑われた後、まるで女みたいだと言われたことだ。いや女だよ、声高には言えないけど。
そういうわけで私は剣術の先生に対しても普段の悪ガキ口調を通すことにした。別に目標にするほどのものでもないのかもしれないけど、いつかはちゃんと敬語を使えるようになりたい。
剣術の稽古は午前で終わり、午後は魔術の授業だと言う。今更魔術でやることなんてあるのかな?などと考えつつも井戸で体を洗う。慣れるまではこの井戸で体を洗うというのは少し拒否反応があった。いくら一応家の中とはいえ、外で裸を晒すのだ。女子に一体何を強要しとるんじゃお主は。
「すみません!家の人はいませんか!」
私が世界に対する呪詛を述べていると、突然門の方から男性の声が聞こえてきた。
我が家に人が来るとは珍しい。じいさんの客人か?村の人は大概知ってる自負があったけど、今の声には聞き覚えがない。
体を拭いてる途中だったので悩んだが、大概やることは済んでいたので半裸の状態から慌てて服を来ながら表に移動する。
ちなみに我が家は普通の村の住宅街からは若干離れたところにある。そのため獣とか魔物対策に家の周囲を囲むようにぐるりと柵がはられている。結果小さいながらも我が家には玄関とその手前に門があるのだ。
私が門に到達すると、ちょうど玄関から出てきたじいさんが合流してきた。
その様子を一目見た後、来訪者の方を見る。門も柵状で向かい側が見えるため、開いてない現状でも容姿を見ることは容易い。
来訪者は二人組。一人は一見青年に見えるが雰囲気がなんとなく大人だ。ここらへんは慣れで判断するしか無いが、容姿に比べてそこそこ年はいってるらしい。ちなみに先程声を発したのはこの人だろう。
なぜならもう一人居たのは明らかに年端もいかない少女だったからだ。先程の男性に手をつながれてチョコンと立っている。かわいい。
一見の感想は親子かな?というもの。そして同時にちょっと違和感を覚える。この親子っぽい二人はどちらも驚くほど美形で、服は立派なものだがそれでも旅をしているようには見えない。要するに村人っぽいのだが、はて。こんな人達一発見たら忘れないだろうに、私の記憶の中にこの人達はいないぞ?
「おや村長さん。もう来られましたか」
私が悩んでいると答えはあっさりとじいさんが喋ってくれた。そうか村長か。ちょっと聞くとむしろすぐに分かりそうな人物だけど、私の行動範囲は基本市場と住宅街程度だし、お偉方なら普段はあまり人前に出ないのかもしれない。少なくとも改めて思い返しても私は会った記憶がない。
でもなんでそんな人が家に?と考えていると、じいさんは村長さんといくつか言葉を交わした後、あっさりと門を開いた。
「いつも儂らのようなもののために便宜をはかってもらい誠に感謝しております。この御恩はいずれ必ず返す故…」
「いえいえ構いませんよ。その分村に貢献してもらっているのですから」
「そうは言われましても、儂にできることは魔術ぐらいしかないですからのぉ」
「それで構わないと言っているのです。近隣の魔物討伐に、ちょっとしたトラブルの解決や田畑の手伝い。今回のことだって、貴方の実力を考えればおつりが来るくらいですよ」
「そう言っていただけると助かります。ご息女の件。全力で務めさせて頂きます」
話の内容で分かったのはじいさんが相変わらず何か凄いこと。そして二人が何らかの取引をしているらしいということぐらいだ。ご息女の件?
私の視線に気づいたのかどうかは分からないが、村長さんが未だに横で手を握っている少女の背中をポンポンと叩いて前に出るよう促した。
改めて少女を見ると…かわいい。肌は抜けるように白いしお目々はぱっちり。父親と同じ薄緑の髪は肩口辺りまでの長さがあって、くせ毛なのかふわりとカールをまとっている。短髪で軽くツンツンしてる私の髪とは大違いだ。
そして…その髪の間からちょこんと見える尖った耳。ん?冷静に村長の方も一瞬だけちらりと観察してみれば耳が長い。もしかして俗にいうエルフってやつか?
村長に促され半歩ほど前に出た少女は、ペコリとその可愛らしい頭を下げる。完璧な角度だ。あざとさを覚えるほどに。
「はじめまして!わ、私はフレーラ=ロクシュと言います!これからよろしくお願いします!」
ちょっと噛んだ、かわいい。
なんだかかわいい妹分っぽいの。フレーラとの初めての出会いだった。
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