魔術系自宅学習の劣等生。でも劣等生だとか最弱だとかで本当に弱いやつっていないよね。

 じいさんからの申し出を受けた時、すぐに返事ができたかと言えばそうではない。

 何回も言うとおり私が目指すものは穏やかな生活であり、それはどうあがいても先日見たような魔物と戦う生活とは相容れない。それに十八になって、いや一応もう二十一なのか?なんだかそう考えると滅入るからせめて十九ぐらいに考えよう。十九歳にもなって剣と魔法ってどうなの?と思わないでもない。

 だが、だがと考えてみる。もしここが石器時代なら石槍もってマンモスを追い回すのに何が悪いのだろうか。むしろそれは褒められるべきことなのでは?つまり何が言いたいかというとこの世界にはこの世界のルールがあるわけで、そのルールに則るのは決して悪いことではない。べ、別に剣と魔術のファンタジーに憧れてるわけじゃないんだからね。

 そんなわけで五秒ほど熟考した私は、じいさんの申し出を受けた。それはもう万感の思いを込めて。ほぼ即答だとか考えたやつには後から木刀を振り下ろしてやる。誰に言い訳してるのかは分からないけど。


 そんなわけで始まった戦闘術稽古。しかしじいさんは剣術の方はあまり得意でないらしく、じいさんが教えてくれるのは魔術だけ。剣術は後で誰か人を呼んで稽古をしてくれるらしい。

 ということで初日の今日は魔術講座。じいさんは既に知っているだろうが、と前置きした上で基礎の基礎の学習のため、家の中での座学が始まった。


「まず魔術を行使する人間にとって、最も重要な要素となるのは己の属性を知ることじゃ」


 座学の第一声はそんなものだった。私は例の魔術のことが書かれた本の内容を思い返す。

 属性。この世界にはそういう要素がある。

 それは個々人によって違い、魔術、そして剣術にすらその影響を及ぼすこの世界の戦闘において最重要の情報と言える。


「この属性には二種類ある。ありとあらゆる人間が必ずどちらか一方を持ち、逆に言えば片方しか持てない二属と呼ばれる属性。光属性と闇属性。ルプス、この二つの属性の特徴をそれぞれ述べてみよ」

「光属性の魔術は回復魔術や防御魔術に派生系の結界魔術。他にも剣士の場合防御が上手い守護力に特化した力を持っている。逆に闇属性の魔術は実質的な攻撃手段を多く備えて、剣士も攻撃主体のものが多い。ただし光属性のような応用力はない。って感じで大丈夫かな?」

「うむ。大まかな解釈は間違ってないだろう」


 属性には二種類あり、その片方を担うのが二属。光属性と闇属性のことだ。分かりにくい人はいつになっても最後にならないファンタジーの白魔術と黒魔術という解釈であってると思う。


「では次に六属の説明をしよう。ルプス、六属の属性は何があるか分かるな?」

「茶化すなよじいさん。火、水、雷、風、木、土の六種類だ」

「その通りじゃ。この六属にはそれぞれ攻撃属性や守備属性。それに相乗属性や得意属性や苦手属性などの概念もあるが、今回はそれらの座学は後日にまわす。今日何より重要なのは属性という要素になれることじゃからな」


 そう言った後じいさんは一つ咳をする。そういえばここまでじいだんが饒舌に喋ったことって少ないような気がする。


「この六属は先の二属と違い、人によって取得できる数などは決まっておらん。基本的には一人に一つか少し珍しい者で二つというところ。三つ以上持つものは大変珍しくての。それがどこの誰であろうと三つ以上の属性を持つものはそうと分かった時点で国から英才教育などを施され、後々は国の元で働かされるものなどが多い」

「ちなみにじいさんの属性は何なの?」

「良い質問じゃ。それではやる予定だった座学と共に教えよう。基本的に人の属性を指すときはこの二属と六属を同時に言うものじゃ。儂の場合闇の火、雷、木じゃの」


 あっさりと言ってのけたが、さっき散々凄いみたいなこと言ってた三つ以上の属性を持つ魔術師であるらしいじいさん。今更詮索なんてしないが。ってか私の知識が確かだと超攻撃特化の恐ろしい属性だなじいさん。若い頃はどうだったんだこの人。


「ちなみにこの属性がどのような基準で個人に宿るかは明確に判別されておらぬ。その人間の性格によって違うというものもおれば、血統や種族であるとも言われている。が、少なくとも儂が知っとる限りどれも間違ってはいないが合ってもいない」

「それはどういうことで?」

「血統で属性が似ることは多いが、親と子で全く違う場合もある。種族はかなりうなずける部分があるが、人間の場合バラけすぎていて単純に種族だけとも言い難い。この中では性格が一番儂の中では合っていると思うの。あくまで個人的な意見に過ぎんが、同属性同士は気があったりするものが多いし、反対に苦手とする属性を持つものとは上手く行かなったりする場合もある」

「もしそうならじいさんって大変だな。三つも属性持ってたら、世の中好きな人と嫌いな人がはっきりしすぎるんじゃないの?」

「だから合ってるとは言っとらんだろう?少なくとも儂はそこまで極端な人間では無いわ」


 本当か?と一瞬疑ってしまったが、さすがに話が進まないので引っ込める。じいさんの若かりし頃、知りてー。


「話を戻すとじゃな。この属性というものは魔術にしても剣術にしてもとても重要な要素となる。なんと言っても使える技が全く違ってくるからの。そして属性の宿り方は判別されておらんが、その人間がどのような属性を持っているかというのは判別がつく」


 じいさんは懐をごそごそと漁り、二つの灰色の石を取り出した。


「属性判別石~」

「う、うむそうじゃ。そうなんじゃがなぜ妙に伸ばした?」

「いや特に意味は無いです。続けてどうぞ」


 私が某二十一世紀の青狸の真似をしたらツッコミが入ってしまった。ていうかそうだ。この世界に著作権があるのかどうか怪しいし、あったとしても元の世界の作品はないのだから、それを適当にパクったら稼ぎにならないだろうか?あーでも印刷技術が無いから怪しいな。原価設定とかも難しそうだし。とりあえず候補の一つとして数えておこう。

 そんな将来設計図を描いていると、じいさんが続けて説明を開始していた。


「この二つの石はそれぞれ二属と六属を計る力を宿しておる。やり方は握るだけ、しかも量産性も高いため簡単に入手できる。首からぶら下げたりしたら常時光らせることもできるし、腕に覚えのある冒険者が名刺代わりに下げてたりするの。ほれ」

「おっとっと」


 じいさんは説明を終えるとこちらに二つの石を放ってきたのを慌てて受け取る。このまま握ってたらすぐに結果が出てしまうのでは?と少し怯えて石を机の上に置く。


「早速やってみい」

「え?もうやるの?なんというかこう心の準備が…」

「なんじゃ。お主ともあろうものが怖いのか?そんなに心配せんでいいし、何にせよ属性を知らぬことには何も始まらぬのじゃ。まず二属のほうから初めい」


 そう言われ、若干気後れしながら二属を計る石に手を伸ばす。そう言えばさっきじいさんは言っていなかったが、属性の宿る基準の一つに女性は光属性、男性は闇属性が宿りやすいとか聞いたことがある。

 私はどっちなのだろう?なんだかこの判別しだいで将来の方向性が決まると考えるとドキドキする。…いやだから戦う職業になる気はないけどね?


「いくぞ」

「うむ」


 改めて気合の声を一声。えい、と属性はんb、長いから属性石でいいや。属性石を握り込む。

 少しした後に手を開き…


「闇属性か。うむ、そちらの方が儂も教えやすくて助かる」


 私の手に中にある石は、闇属性を示す暗い光を放っていた。


「なんでや」

「む?どうした」

「いやなんでも」


 思わず口に出して呟いてしまった。あ、あれだよね?属性が宿る基準なんて分かってないし?さっきの話も割合的にそうってだけだからな???


「続けて六属の方もやるのじゃ」

「あ、はい」


 じいさんに進められて六属の属性石を握る。謎のショックのせいか今度は躊躇が無かった。

 しばらくして先程と同じように手を開く…が。


「あれ?光がついてないぞ?」

「むむ?どういうことじゃ?もしかしてつかまされたのか?」


 つかまされた。つまり不良品かもしくはただの石をそれっぽく加工したものを渡されたか。でもわざわざ安価な属性石にそんなものを仕込むだろうか?

 とにかく何か接触不良的な何かかと思い、一度じいさんに渡してみる。するとじいさんは不思議そうに属性石を握り込み…


「点いたの」


 当たり前のように三色の色が灯った。


「あれれ?握り方でも悪かったのか?」

「そんなはずはなのじゃがのう。もう一度やってみろ」


 そう言われ再度私が試してみるが、なぜか光が灯らない。属性石は元々の灰色のままだ。

 じいさんと二人不思議に思い、じいさんにもう一度渡してやっぱり光が灯り、そして私がやって灯らない。を何度か繰り返す。

 そしてその現象が繰り返すたびに、私は一つの違和感のようなものに囚われていた。

 先程までの説明の中で、私は何か重要な要素を取りこぼしていたのではないか?

 じいさんも何か薄々感づいてきたのか、今は私の手の中にある灰色の石をじっと見つめたまま、髭をさすっている。


「もしかしてお主…」


 ああ、と思い出す。

 『二属はどちらか片方が必ずとれる』というような発言を聞いた。だけどそれって裏返して言えば…


「無属性…なのか?」


 六属は必ずどれか一つが取れるとは限らないのだ。


 ルプス=クロスロード。闇の無属性。




 そんな事実があったのにも関わらず、私がこうやって外に出て魔術の実技をしていることを誰か褒めて欲しい。

 じいさんはまだ幼いから属性が定着してないだけかもしれない、そういうことはまれにある。と言ったが、何故か私の中では確信的に自分の属性は無いのだということが分かっていた。

 神様ってやつはやっぱり私のことが嫌いらしい。今度あの糞鳥に出会うことが合ったら、やっぱり締めて焼き鳥にしてやろう。


「今から魔術の実技に入る。まずは一位の初歩的な魔術からだ」


 私の地獄に堕ちてるようなグツグツとした感情をよそに、魔術の授業は進んでいく。

 現在私は例の魔術の本を片手に外に出て、庭に生えている一本の木の近くまで移動していた。


「お前も知っているとおり魔術や剣術には一位から七位までの階位があり、数字が大きくなるほど高い力を発揮する。この階位を元に、何位の魔術師などと呼ばれることもある。階位が上がる毎に使用する難易度や消費が激しくなるが、一位ならなんともないじゃろう。二位以降は…その…とりあえず一位から一つずつじゃ」


 二位以降の魔術行使には、六属の力を使う必要がある。むしろ二属だけの力でやるのが一位魔術であり、六属を合わせることが二位魔術の条件なのだ。そのことを知っている私には、じいさんが口を濁したのにどうしても暗い気分にさせられてしまう。光魔術の回復魔術などならばこの限りでは無いというのだから、やっぱり神様は徹底して私のことが嫌いらしい。


「魔術の行使にはいくつか手段があるが、今回は最もポピュラーな魔術詠唱による魔術行使じゃ。使用魔術は【闇玉】。あの木に当ててみるのじゃ」


 じいさんに言われて、本のページに記載されている呪文を詠唱する。


「『闇よ』『玉となれ』」


 魔術詠唱に必要なのは属性を決める序章。そしてそれ以降の位階が上がる毎に一章ずつ増える呪文。私には関係ない話だが。

 そんな風に半ば不貞腐れた思考で呪文を唱えていると…。


「―――!?」


 良いようのしれない感覚ということはこういうことを言うのだろう。

 肌に鳥肌が立つとか、どこかが痛むとかそういう物理的感触ではない。


(今の…!魂に干渉された!?)


 きっとそれは私でなければ分からなかったであろう感触。呪文を唱えた直後、外側から無理やり魂に何か作用が加えられた。そしてその作用に答えるように、私が両手で広げた本の上にピンポン玉程度の黒い玉が浮かび、目標とされていた木にぶつかり…ただ玉だけが弾けた。


「うむ。いいだろう。…む?どうしたルプス。大丈夫か?」


 私の行使した魔術を見たじいさんが一度うなずき、その後こちらの妙な様子を見て心配の声をあげた。

 そうだろう。鏡がないから分からないが、きっと私の顔は酷いことになっている。血の気が引いて真っ青程度ならば良いほうだろう。何と言っても私は今、本体とも言える魂を外から無理やり動かされたのだ。その衝撃は下手な物理的衝撃より大きい。


「疲れたようだったら一度休息するぞ。魔術の過剰な行使は危険じゃ。下手をうてば廃人になることもあるからな」


 じいさんがいつになくきつい口調で言ってくる。その言葉の端々にはこちらを気遣う様子が見える。


「いや、大丈夫だ」


 だが私はその申し出を断った。額に浮かんだじっとりとした嫌な汗を袖で拭うと、私は一つ深呼吸をする。

 確かに魂を勝手に操作された私は今かなり危険な状態だろうが、なぜだか私には確信していることがあった。

 魔術書の呪文を見ず。目には目標の木だけを見据え、自らの魂に意識を集中する。

 先程勝手にされた魂の操作。その直接刻み込まれた動作を再現し、更に今度は意識してその作用を変化させる。

 大きさはテニスボール程度。弾丸のように先の丸い円筒形に改造し回転を加える。速さできるだけはやく。ともかく目の前の対象を吹き飛ばすと意識する。


「な、なんじゃと…!?」


 傍らでじいさんが息を呑む音が聞こえてきたが、全てを無視して作り上げた【闇玉】に集中する。


「『貫け』」


 本来【闇玉】の詠唱にそんな呪文は無い。だが効果は抜群だった。

 直後、私の視界の先で目標の木が半ばからへし折れ、折れた先が宙を回転していた。

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