第2話

「じゃ、そろそろいくわ」

「じゃあね、鯖那智」

「またね! お兄ちゃん!」

ま、まてよ!おい!聞こえねーのか!待てって!1人にしないでくれよ!なあ!何だよお前ら!邪魔だって!

「さぶくんこっち」

うるせぇ!透!姉ちゃん!楓!おい!

楓が振り返り笑いかけた。

「お兄ちゃん」



「…ちゃん! お兄ちゃん!」

目が覚めたら腹の上で転がっている楓がいた。

「あーさーだーよー! 起きて起きて!」

「あ、ああ」

ベッドから這い上がり下に降りると朝飯がテーブルの上に並べられていた。

「おはよう」

「ん、おはよう」

「寝癖立ってるよ?」

「あ、ああ。後で治す」

朝飯を食べ身支度をし、楓とともに玄関で靴を履き、後で仕事に出るであろう姉に「行ってきます。」と告げ、楓を小学校に送り、高校に向かう。

「また、見たな」

鯖那智は夢のことを思い出していた。あの女の子達は誰なんだろう。それよりなぜこの夢ばかりみるのだろう。何かの予兆なのかもしれない。

そんな考え事をしていると透とすれ違う。あれ、今日遅くねーか?

「何でこんな遅いのよ」

「ん、寝坊寝坊。新しいネタ考えたから夢中で描いてたらまさかの2時だったわけ」

透は漫画を趣味的に描いている。漫画を描いてみたいという理由だけでやってみたらどハマりしたらしい。絵自体は特別うまいわけではないが、内容がとても魅力的な作品ばかりだ。全くラノベに出てくる高スペックイケメンのようなやつだ。たいていのことならなんでもできてしまう。

「でさあ、鯖那智が廊下で女の子のスカートの下にこけてしまって学校にいられなくなるというネタなんだけど。どうかな?」

「まずなんで俺が漫画にいるんだよ」

「昨日使っていいって言ってたから」

こいつ本当に友達なのか?

「まあいいけど」

「ありがとさん」

そんな会話をしていると学校に着いた。学校に着くと肩が重くなる持病は健在か。

そんなことを思いながら学校に入る。この学校は3階建てが3棟あり、1棟が2年生、2棟が1年生、3棟が3年生という配列になっている。俺たち1年生は2棟に入るのだが生徒玄関に人混みができている。まあいつものことだな。中には彼女さんもいました。

「やあ、おはよう」

爽やかスマイル100%はいりましたー。

「おはよう。透くん」

彼女さんは照れているようです。顔を隠して友達のいる方向に走って行きました。かわいいかわいい。

「じゃ、昼休みな」

「おう」

透は彼女さん[他数名]とともに教室に入っていった。

「さて。頑張りますかな。」

憂鬱な気分になりながらそう呟く鯖那智だった。



午前の授業が終わり、弁当を広げ窓の外を見ていたらなにやら人混みがある。彼女さん込み。片手に弁当を持つ困り顔の透がいた。それを見ていると透も気付いたようだ。両手を合わせて頭をペコペコしている。

(ジュース奢り確定な)

特有のジェスチャーをし、口パクで「ごゆっくりー。」と告げた。どうやら通じたらしく、透は爽やかスマイルになり、運動場の方へ消えていった。

「さて...今日はぼっちか」

いつもより少しゆっくり弁当を食べる鯖那智だった。



放課後のチャイムが鳴り、廊下に出るとやはり人混み。彼女さん込み。

「お、サブ。ごめんな」

「ジュース1本」

「ほい」

こういう会話すると...

「...」

やっぱりこっち見てるー! こっっっわ!

「じゃ、明日ね。透くん」

「ん、気を付けてね」

女の子たちは帰っていった。やべー、変な汗出たよ。

「じゃ、とりあえずコンビニでも行くか」

「おう」

今日は誘われてたわけじゃないのかな。



コンビニでオレンジジュースをおごってもらい、帰り道を2人で並びながら歩いていると、

「そいやさ、サブ」

「ん」

「2組の神崎さん知ってる?」

「あー、あの人か」

鯖那智は3組で、透は5組、神崎さんこと神崎真矢さんは2組で鯖那智の隣のクラスだ。この高校の中でも1年なのにトップカーストに入るくらいのかわい子さん[という噂]。接点は全くないはずだが。

「その人がさ、サブの名前知りたがってるらしいんだよね」

「お前が神崎さんから聞いたわけではないんだな」

「千聖から聞いてさー」

「あー」

千聖というのは彼女さん。かわいい名前ですねー(棒

「サブもラブコメが始まっちゃうのかな?」

ニヤニヤしてんじゃねーよ。

「そんなんじゃないって、絶対」

「全否定デスカ」

「そうだす」

「まあ悪い印象は持たれてないと思うよ。話してみれば?」

「お前話したことあんのか?」

「休み時間とかよく話すよ」

こいつもトップカーストの仲間だった。

「ま、気が変わったら言ってよ」

「変わんないと思うが...」

そうこうしてると透と別れる道まで来てしまった。

「じゃ、また明日な」

「じゃあな」

透くんと別れを告げ、1人帰り道を歩く。

「神崎さんかぁ...」

皆の人気者であるはずの人がなぜ俺の名前を?こういうのラノベでよくある展開だよね。

その話を聞いてからやたらと機嫌がいい鯖那智は早足で我が家にむかうのだった。



「ただいまー」

「おか...。なによ、ニヤニヤして」

「なんもないよー???」

「あっそ」

「お兄ちゃん! ゲーム! ゲーム!」

「はっはー! 楓よ! 今の俺は強いぜ? ワンパンしてやるよ!」

「ご飯できる前にお風呂入っちゃってね。沸かしてるから」

「おーう」

食卓前も賑やかな日暮家であった。



いつもの賑やかな食卓も終わり、姉と今日のことについて話していると、

「でさあ、その神崎って人があ...」

「スー、スー」

「寝ちまったか」

よほど疲れていたのであろう。姉の寝ている姿など久しぶりに見た。

「俺も今日はここで寝るか」

姉の肩に毛布をかけて「おやすみ」と小声で言う。

「お兄ちゃーん!」

「シッ」

「ムグっ」

「寝かせてやろうぜ。姉ちゃんにおやすみ言って寝ろ」

「ふぁい」

楓は姉のところに行くと耳元でおやすみと言って俺のところに来た。

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「ん」

「お顔近づけて」

言われるままに近づけると

「おやすみ」

と楓が耳元で囁いた。

「ああ、おやすみ」

楓は、にっこりと笑うと2階に上がっていった。

やはり、家族は最高だった。



戸締りを確認し、楓が寝たのを確認して、姉をソファーに運んだ。こいつ軽っ。

姉に毛布をかけ、床に寝転がると一気に睡魔が襲ってきた。

「...寝よ」

なにも考えず目を閉じたらすぐに鯖那智の今日は幕を閉じた。



午前1時46分。明日香は目が覚め、自分にかけてある毛布と床で寝ている男の存在に気付いた。

「もう...。風邪引くでしょうが...」

毛布を男と半分こで使い男の顔を見ながら明日香は密かに笑った。

「ほんとに...馬鹿なんだから...」



「...ちゃん! お兄ちゃん!」

「あ、ああ。おはよう」

「あーさーでーすーよー! 起きてー!」

あー背中痛え。やっぱ床はかてえな。

鯖那智が起きたことに気付き明日香は振り返った。

「おはよう。鯖那智」

今日も日常が始まる。

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