ぼっち風でもそこそこ幸せにはなれるのです。

霧巻クイナ

第1話

ーとある高校の昼休み。そこには1人で弁当を貪り、窓の外を眺めながら深いため息を吐くそれはそれは残念な少年がいた。ー


「おいなんだよこれ。俺のことじゃねーか」

漫画を読む俺、日暮鯖那智はその少年のように深いため息を吐き、食べ終えた弁当をナプキンで包んだ。

「いいじゃんか! おまえネタにしやすいんだよ!」

笑いながら怒鳴るのは爽やか風イケメン、能穂矢透。リア充ってやつ。まあそこは俺にはどうでもいいことだが。どうでもいいことだが。

「俺を描くのはいいが、もうちょっとこう...人物像とかどうにかならないか?俺こんなに評判悪くないと思うが。」

透が描いた漫画は、いかにもコワモテそうな主人公が学校でコミュ症っぷりを見事に表現し、悪い方向で学校中の注目を浴びるという、なんとも残酷な内容だった。

「まあおまえの噂はちらほら聞くよ。落ち込む内容ばっかではあるけど」

「シッテル」

それから5分くらい雑談をしていたら学校のチャイムが鳴り響いた。

「じゃ、俺行くよ。また放課後な」

「ああ」

透は席を立ち、教室を出て行った。

これが俺の生活の一部。透以外は話しかけてくるやつは誰1人いない。いわゆるぼっち寸前の男だ。なんでこうなったかは後々話すとしよう。早く帰りたい。



ぼーっと授業を聞いていたはずがいつの間にか放課後になっていた。支度を済ませ、教室を出ると廊下にはすでに透がいた。複数の女子と。まあ、いつも通りだな。中には彼女さんもいました。

「お、きた」

透が俺に気付くと女子達も気付いたようだ。

なんか睨んでるんですけど。そうですか。邪魔でしたか。それはさーせん。

「また明日ね! 透くん!」

女子達は透に別れを告げ帰っていった。

「お邪魔したな。」

「いや助かったよ。一緒に帰ろうて誘われてたんだ。」

こいつまじで殴りてーな。

「帰らなくてよかったのかよ。時間は大事にしたほうがいいぞ。」

「まあ今日はサブと帰りたい気分なんだよ」

「そ、そうか」

いい子や。

雑談しながら歩いていると、

「なあ、ちょっと寄ってかね?」

透が指差していたのは帰り道にあるショッピングモールだった。



早く帰りたかったがまあいいだろう。ちょうど卵を切らしていたところだった。こういうと1人暮らしを連想されるんだが違う。そして言い出しっぺの透はというと、

「おまえ...なにしてんだ」

「いや、深い意味はない」

女性用の靴を見ていた。

「プレゼントか?」

「あ、やっぱわかるか」

「いや、俺高校生だから。そのくらいの情報はちゃんと持ってるから」

「ごめん」

俺をなんだと思ってるんだ。

「靴はダメかな。重いと思われるかも」

「そうか」

リア充爆ぜろ。

それから30分くらいモールの中を歩きまわってみたがなかなか気に入るものが見つからないらしい。

「んー、プレゼントとかわかんないなー」

ん?これは...

「まさか初めてなのか?」

「ん。そだよ」

お、おう。そうなのか。

「ネットの力は使わないのか?」

「こういうのは自分で選ぶことに意味があるんだよ」

そういう情報はどこから得るんだ。

「そ、そんなに考えてるんならなんでも嬉しいんじゃねえか?」

「え?」

「いやだから...なんていうか...もうなんでもいんじゃね?」

なんかめんどくさくなってきた。

「おまえ...」

ん?顔にでてた?

「そういう情報どこから取ってきたんだ?」

「...」

なんか勘違いしてらっしゃる。



「今日はありがとな。んじゃ、また明日」

「おう」

結局買ったのは最初に見ていた靴。30分返せ。透と別れた後は1人で帰り道をただ歩く。モールからそんなに遠くないから5分でつくだろう。あれ、なんか忘れてるような気がする。…ま、いっか。

「今日は疲れたな...」

眠気に襲われ思わずあくびが出る鯖那智であった。



「ただいまー」

「ん、おかえり」

「おかえりー」

帰り着くと迎えてくれたのはエプロン姿の姉、日暮明日香とほんわか系の妹、日暮楓。これもいつもの光景。

「なんか今日遅かったね」

「買い物してた」

「ふーん」

なんか不満そうな姉。午後9時だから怒られても仕方ないけど、そんなラブコメに出てくるツンデレみたいな対応しますかね。

「お兄ちゃーん! ゲームしようよーーー!」

「あーわかったわかった」

「今日は負けないよ!」

「あとで吠え面かくなよ!」

これも日常。姉が飯作って、俺は妹とゲーム。ゲーム。ゲーム。なかなか楽しい。

「ご飯できたよー」

「おーー!」

「ん、さんきゅ」

「じゃ、手を合わせて。せーの」

「「「いただきます!」」」

「さてじゃ、俺は肉を」

「シュパーン!」

「あ、てめ! 肉取りすぎだ!」

「んんふぅう! うま!」

「おおぉぉい! 3分の2減ったぞ!」

「私の肉取りスキルは侮れないのだ!」

「てめぇ! 仲間には報酬を分けるものだろうが!チュートリアルからやり直せ!」

「はぁ...」

今日も日暮家の食卓は賑やかだった。



食事を済ませ、風呂に入り、2時間ほどゲームして寝落ちした妹を部屋に運び、姉と一日のことを話したあと歯を磨いて姉に「おやすみ」と言い、二階の自部屋のベッドに横たわる。

今日も一日が終わる。何気ない今日が終わる。明日も明後日も。こんな風に一日が終わっていくのであろう。ぼっち寸前でも不便に思ったことはない。ていうかもし透がどこか遠くに行って、姉が家から出て、妹が成長して仕事に入って家にあまり帰れなくなって。

そうなったら俺は本当にぼっちなのでは?1人で生きていけるのか?

最近鯖那智は同じ夢を見る。真っ白の部屋に鯖那智と見知らぬ子が3人。その後ろに姉や妹、透が立っている。そういう感じの夢だ。思い出すだけで胸がいたくなる。また今日も見るのかな。

「...寝るか」

そのときはそのときに考えよう。今はこの幸せに酔いしれていたい。そう願い、鯖那智は目を閉じた。



あ、卵買うの忘れてた。

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