第24話 お兄さんは心配性

 C-membersの元へやって来て大翔を見つけた葵は、自分たちの職場で起こった出来事をすぐ彼に伝えた。


「ひろちゃんが出かけてから少しして、良太さんがB-membersうちに来たの!」

「お兄ちゃんが?」

「え、まさか葵ちゃん、わざわざチャンヒロにそれを伝えるためだけに……」

「要さん……たったそれだけなら、あたしスマホで伝えます! 問題は、良太さんがうちで騒ぎ始めたことです!」

「何があったの?」


 凛が心配そうな顔で聞いた。彼の周囲の者たちも、B-membersで何が起こったのか気になっている。


「まず良太さんは、ひろちゃんを探していました。それで『外出中です』って、あたしが言ったら次は『結城ゆうきさんに会いたい』って……」

「ふーん、勇果ゆうかちゃんに?」

「ちょ、要さん。その呼び方は……」

「何だよチャンヒロ。良いじゃん別に」


 結城勇果とは、B-membersのリーダーである。


「ユッキーさんは今日は外での仕事はなかったので、あたしはユッキーさんを呼びました。すると良太さん、すぐに『あんた、うちの弟に何するんですか!』って、すごい剣幕で叫んだんです……」

「……お兄ちゃん……。ぼく、あんなに『来ないで』って言ったのに……」

「え? 大翔くん、最近何かあったの?」

「うん……。お兄ちゃん、ぼくがB-membersに移ってから心配性がすごくて」

「げっ、あれより上なんてあるのかよ」


 要が驚いていると、大翔は疲れた表情で頷いた。


「でも、いつも優しいお兄さんじゃない! ほら私たちが同期会やるって聞いたときに『これでピザでも頼んで食べろ』って、お小遣い渡してくれたこともあったし……」


 姫美子は良太の弟思いなところを語る。だがしかし。


「でも……お兄ちゃん、ひどいんだよ! 同期会の話題になると『不純異性交遊だけは絶対にやめてくれ!』とか言ってくるし!」


 姫美子の目は大きく開き、口は閉ざされた。そしてすぐに凛が話し始めた。


「葵ちゃん、どうして良ちゃんはユッキーに怒鳴ったの?」

「はい、それは数日前のことです。ひろちゃんは、コンビニ前で店員さんを殴ったり変なことを言ったりして暴れている客と格闘しました。もちろんひろちゃんが勝って、その男は捕まりました。でも、ひろちゃん少し怪我しちゃって……。その日の夜、ひろちゃんは良太さん家に呼ばれて、夕食を一緒に食べることになっていたんです。それで良太さんが、ひろちゃんの怪我を見てショックを受けたそうで……」

「本当に大したことないんですよ! ほら!」


 大翔は左腕に負った怪我を見せた。そこに見えたのは、思い切り殴られたことがはっきりと分かるような、少々大きめの一つの青アザだった。


「うーわ、痛そ……」


 要がそう呟くと、姫美子も表情を曇らせて一言。


「大翔くん、これは私も心配するわ……」

「全然平気だよ。これでも武道やっている身だし」

「でもさー、チャンヒロが武道を始める際にも、兄弟間で少し揉めたよね。ボクその場にいたから覚えてるよ。で、色々話した結果、防具つけながらやる日本拳法にした……と。兄ちゃんと同じ柔道ではなく」

「柔道は……まあ、子どものときからやらない方が良いって話していたんで……。そ、それは置いといて! 葵、お兄ちゃんとユッキーさんは、どうなった?」

「もう大変だよ! ユッキーさん、すぐに良太さんに口で返せなくなって、危うく殴りかかるところだった。でもそんなの絶対にダメだから、秀さんたちがユッキーさんを差し押さえて……。それであたし、ひでさんから『急いでC-membersへ向かってくれ』ってこっそり指示出されて……。その後のことは、もちろん分からない……」

「喧嘩の光景、想像できるわー。さすがヤンキーだねぇ勇果ちゃん」

「あのリーダー、後輩社員に口で負けたら手が出るなんて……みっともない」

「譲ちん、お前にしては言うね。やっぱ嫌っているだけのことはあるわー」

「……否定しません。というか、できませんね。こればっかりは」

「おっ、素直だね~」

「ダメだよ二人とも」


 凛の優しいストップに、要と譲は大人しくなった。


「今日は慈郎じろうさん、シルバーさんたちのマジック教室の先生で……」

「こんなときに青山あおやまさん不在でしたか……」

「慈郎ちゃんも忙しいね~。さすが凄腕マジシャン」


 青山慈郎。要の言う通りマジシャンである彼は良太とは同期で、とても仲が良い。


「良いストッパー役がいないから、良太さんもヒートアップするばかりで……。そのお陰で、あたしは全く興味を持たれずに簡単に外に出られたんですけどね。とにかく凄まじい争いだったなぁ……」

「えー……」



 そして、今。


「大翔、待て!」

「やだよぅ。帰ってよ、お兄ちゃん!」


 渡辺兄弟は、C-membersの職場よそで絶賛追いかけっこ中である。


「ンにぃ~ちゃんは帰らないぞっ! お前が本社勤務に戻るって言うまで!」

「こんなモンスターペアレントみたいなお兄ちゃん、嫌だっ!」


 走り回っている兄弟を見て、とうとう譲が怒った。


「やめてください! ここは俺たちの職場ですよ!」

「お願い二人とも、まず座って!」


 譲と凛の声に、渡辺兄弟の動きはピタッと止まった。そして兄弟揃って赤くなり、二人は凛が指差す場所へと向かって行った。


実家うちでやりなはれ~」


 静かになったところで茶化す要。しかし誰もそれについて何も言わなかったのは、一同がその言葉について全く同感だったからであろう。

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COOLMAN 卯野ましろ @unm46

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