第23話 長男坊もやって来た

「えー……」


 葵から話を聞いた大翔は、不安になった。自分が今置かれている状況を知り、ただ事ではないと感じた。


「ひろちゃん……」

「大翔くん……」


 大翔の同期二人は、表情を曇らせる彼を心配している。その様子を見て、要がすかさず言った。


「チャンヒロ、お前王子か!」

「へ?」


 ニヤニヤ顔の要。そして「要さんこの人は突然何を言っているんだ」とキョトン顔の大翔。


「だってさ、こんなかわいい女の子二人から心配されて、お前幸せ者じゃん! もう王子様じゃんかよ」

「っ……!」


 赤面する大翔。彼の同期は姫美子と葵の二人だけ。つまり大翔は、同期社員三人の中で唯一の男子なのである。


「要先輩、今そんなこと言っている場合じゃ……」

「まあまあ、譲」

「凛さん」


 また怒りそうになった譲を、凛が落ち着かせる。そして凛は、大翔に優しく言葉をかける。


「ひろちゃん」

「……はい……」

「確かに、ひろちゃんは少し大変なことになっているけど、とりあえずここにいようよ。葵ちゃんも。」

「え?」

「とにかく、お茶の再開! B-membersには連絡するよ!」

「ありがとうございます!」


 大翔と葵は、声を揃えて凛に礼を言った。

 凛が今重要だと考えたのは、大翔に元気を出してもらうことだった。不安になった大翔を少しでも励ましたい。凛はそう思ったのだった。


「ほら、こういうところが違うんだよ。凛さんとお前は」

「く……!」

「要」

「……ふーんだ」




「赤面している割には、やることやってんじゃねーか!」

「にゃあ」

「いえ、そんな……」

「先輩、ほどほどに」


 さくらを隣に、要が爆笑しながら見ているのは、大翔のスマートフォンに保存されている写真だ。その写真では、真ん中で大翔が決めポーズをとって、そんな彼の両隣に、姫美子と葵が祈るように両手を組みながら立っている。


「これはつい楽しくなっちゃって……」

「いつ見ても良いよね、この写真! あたし好きだよ!」

「葵……」


 少々恥ずかしそうにしている大翔に、葵が楽しそうに話しかける。


「うん。同期の仲の良さが出ていて、おれも好きだなぁ」

「私もこの写真見て、楽しい気分になるときある!」

「凛さん、きみちゃん……」

「ほら、良いって言ってんじゃん! 別にボク、変なんて思ってないよ。おもしろいから笑ったんだよ」

「良かったね、ひろちゃん! あたしもそう思ったもん! 要さんはこの写真、良いと思ったんだって」

「そうそう」

「……」


 しかし、大翔は暗い顔をしている。


「ひろちゃん?」


 葵が大翔の顔を覗いた。それと同時に……。


 ピンポーン。


「またお客さんですね」


 譲が玄関へと向かった。


「次は誰だー?」


 要がノリノリで玄関の方に顔を向ける。他の四人は茶を飲み、アップルパイを摘まんでいた。すると、


「ちょっ……! ご遠慮ください!」


 譲が誰かを注意する声が聞こえてきた。


「譲?」

「譲ちーん? どうしたの~?」


 凛たちは玄関へと急いだ。一体何事か。


「譲どうしたの……あ!」


 凛が玄関で目にしたのは、恰幅の良い男性だった。


「失礼致します、凛さん! こちらにうちの弟が、お邪魔していませんか?」


 大翔の兄で、彼と同じくCOOLMANの社員である、渡辺良太りょうたであった。


「良ちゃん……」

「凛さん、どうしましっ……」


 凛の後を追った同期三人は、玄関に着いて目を大きく開いた。驚いた大翔は、言葉を全て言い切れなかった。


「お兄ちゃん……!」

「大翔、ここにいたのか! さぁ、兄ちゃんと帰ろう! 話をしよう!」

「い、嫌だ!」

「大翔!」

「ぼく……嫌だよっ! お兄ちゃんと話したくない!」


 大翔は兄に背を向けて、逃げた。


「あ、コラ待て! 大翔、兄ちゃんの言うこと聞きなさい!」


 その途端、良太は靴を脱いで大翔を追った。そして兄弟二人の後に続く、凛たち。


「……こんな偶然あんのかよ……」


 一番遅れて玄関に向かった要は、やれやれ、とその様子を眺めていた。そしてそのとき、


「おーい、ドア開けっ放しだぞ~。泥棒来たらどうすんだ!」

「あ、晴真」


 別仕事で外出していた晴真が帰ってきた。


「要、良太が来ただろ?」

「来た来た」

「あいつ弟探しているから、オレ『うちにいるかもしれないから、行ってみ?』って言ったんだよ。そしたらものすごい速さで走っていってさ。マジ動けるデブ」

「ってことは、お前がチャンリョー呼んだわけ?」

「あぁ、そうだな」

「……晴真……」

「お、何だ?」


 要は晴真に、ビシッと指を差した。


「お前、絶対さげちん!」

「えっ……」


 ガーン……。


 突然の言葉に、晴真はショックを受けた。そんな晴真を置いて、要はスタスタと戻っていった。

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