第22話 渡辺さんとこの次男坊がやって来た

「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 ただいま休憩中の凛と姫美子。姫美子は手作りアップルパイと、淹れたての紅茶を凛に出した。


「きみちゃんのアップルパイだー♪ すごいな~、餃子の皮でパイになるんだね!」


 姫美子が今回持参してきたアップルパイは、餃子の皮を使っている。きつね色の餃子の皮に、りんごとクリームチーズが入っている。


「この前作ってきたアップルパイはホールでしたが、こっちの方が短時間で一度に作れる量も多いし、みなさんたくさん食べられるかな~って……。」

「きみちゃんは優しいね。でも今は……」


 凛と姫美子、二人きりだ。


「……」

「いただきまーす」


 少し恥ずかしそうな、でも嬉しそうな姫美子に構わず、凛はアップルパイに手を伸ばした。するとそのとき、ピンポーンと軽快な音が二人の耳に入ってきた。


「お、良いタイミングで誰か戻ってきたか?」

「私、出ますね」


 姫美子は安心と残念が混ざった複雑な心を抱えて、玄関に向かった。


「やっぱりおいしー」


 ニコニコ顔でアップルパイをつまむ凛。紅茶との相性も抜群で、大満足の様子。ひょいっと次々にアップルパイを口に運んだ。




「はーい……、あっ!」


 姫美子がドアを開けると、そこにはさくらを抱えた要、片手に書類の譲、そして、


大翔ひろとくん!」


 姫美子の同期社員、渡辺わたなべ大翔がいた。


「きみちゃん、お邪魔します」

「ちょうどそこで会ったんだ。な、チャンヒロ!」


 要に肩をポンポンされている大翔は、楽しそうに笑っていた。




「ただいま戻りました」

「凛さんただいま~。あっ、何か食べてる!」

「にゃ~」

「お帰り! あ、ひろちゃん!」

「凛さん、こんにちは。お邪魔します」

「やっぱり餃子にしてきて正解でした~」


 一気に人数が増え、猫も来て、にぎやかな茶会が始まりそうな予感である。




「あ~、さくらかわいいな~」

「にゃあ~」

「すっかりチャンヒロになついてるね」


 この度さくらはC-membersのオフィス猫として職場に居ることを本社から許された。甘えん坊のさくらを長い間家に置いていくことに戸惑った凛は、彼女のために本社から許可を得ようと決意。凛がオフィス猫のメリットを熱く語った末、さくらは正式にオフィス猫となったのだった。


「大翔さん、何か用があったのでは?」

「あ、そうだった! ありがとう譲くん」


 大翔は持参してきたものを取り出した。


「凛さん、これです」

「おー、ご苦労様」

「すっかりおつかい係が定着してんじゃんチャンヒロ」

「B-membersでは、ぼくが一番新しいから一番動かないと……」

「それ、パシリじゃないですよね?」

「え、仕事だよ? 大丈夫大丈夫」

「あそこのリーダー嫌いだからって神経質になってんじゃねーよ譲ちん。お前、真面目に見えて結構私情を挟むよな」

「な……!」

「要、ストップ」

「……はーい」


 凛の言葉で要は止まった。


「大翔くんは猫ちゃん好きだけど、飼ったことはないのよね?」

「うん、お兄ちゃんが猫アレルギーだから。オフィス猫うらやましい~」


 大翔がさくらとじゃれていると、また

ピンポーン。


「俺が出ます」

「そうそう、一番下なんだから一番動いて!」

「っ……」

「か、要さん……」


 茶化す要とその要をにらむ譲を見た大翔は、何だか申し訳ない気持ちになった。しかし、


「ひろちゃんは何も気にしなくて良いんだよ」

「凛さん……!」


 凛の優しい一言に、心が癒されたのであった。そしてまもなく、譲がみんなの元へ戻ってきた。


「凛さん、B-membersの仁科にしなさんがいらっしゃいました」

「こんにちは! お邪魔しまーすっ」

「おー、あおいちゃん!」

「葵ちゃん!」

「きみちゃーん!」


 ショートヘアーが特徴の、ボーイッシュな仁科葵。彼女もまた、姫美子と同期の社員である。


「葵っ! どうしたの?」

「ひろちゃん!」


 驚く大翔に、葵はここへ来た経緯を説明し始めた。

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