第18話 きみちゃんの「実は…」

「みんな、ラーメン食べに行かない?」


 ある夜に、凛からの誘い。それに対して、


「いいっすねー」と大悟。

「右に同じ~」と要。

「参加します」と譲。

「タダ飯……行きまーす」と晴真。


 そして、


「わあ、ラーメン! 喜んで!」


 大好物故に、ハイテンションに返事する姫美子。


「よし、行こう!」

「はい!」


 全員参加に心から喜ぶ凛だった。




 そして今、一同はラーメン屋の前にいる。


「お。今、大食いキャンペーンやってるんだって」


 要の何気ない一言。これが、


「はい! ジャンボラーメンです! 頑張って食べてくださいね!」


 ラーメンとC-membersが戦うきっかけとなった。


「どうしてこんなことに……」

「なぁ……」


 目の前のジャンボラーメンに驚きながらため息を吐く譲と大悟。


「そんなこと言って、さっき結構ノリノリだったじゃん、お前ら」


 後悔している二人の間に座っている要は、笑右手で譲、左手で大悟の背中を叩く。笑いながら。


「これを三十分以内に食べ切れば、タダなうえに金一封貰える…!」

「ハル、気合い入ってるねぇ」

「当たり前じゃないっすか凛さん!」

「それにしても大丈夫? きみちゃん」

「え?」


 ラーメンとにらめっこする姫美子を見て、凛は心配そうな顔で声をかけた。


「ノリでこんなことになって、無理していない?」

「あ、私……」

「大丈夫ですってぇ! きみちゃんがダメなら、オレが代わりに食べますからぁ!」

「ふーん。それが決してセクハラじゃなくて、単なる親切だってこと、全力で信じるよ。ボク」


 晴真がギロッと睨んだ先には、口笛を吹く要。


「……そっか。さ、伸びちゃうから食べようか! いただきまーす!」


 凛に続き、後輩たちもラーメンを食べ始めた。


 そして数分後……。


「うえ……キヅい……」

「苦しい……」


 食べる前から弱気だった二人は、既に苦しそうな表情を浮かべている。


「ほら~、みんな頑張れよ!」


 一番最初に食べ終わった要は、もう応援係となっている。


「要、ふざけんなよ! おめーが食いきったのは、ちびっこ向けじゃねーか!」


 そう。大悟が言ったように、要が食べたのは、お子様ジャンボラーメンだった。大人なら、空腹であれば完食できる量のラーメンである。ちなみにそれを食べ切れば、通常のジャンボラーメンの半額だが、賞金も貰えるのだ。


「何が悪いの? 別に大人は頼んじゃいけないなんて、書いてなかったもん」

「くそ! おめーが最後に食券を買ったのは、バレねーようにって考えてたからか……イデ!」


 要が大悟の頭をコップで軽く叩いた。


「早く食べろ」

「……はい……」

「おー! おめでとうございます! 初めての成功者です!」

「えっ?!」


 店員の声が響き、要、大悟、そして譲は驚いた。


「これ完食できた人、いるんですか?!」

「凛さん? もしかして晴真か? じゃあオラのもついでに……、アーッ!! やめろーっ!!」


 大悟が絶叫したのは、要に後頭部をつかまれ、まだ熱いラーメンの中に顔を突っ込まれそうになったからだ。


「甘ったれんな。それに、完食したのは凛さんでも晴真でもないよ」

「え? ってことは……」

「姫美子さん、すげ……」

「え!!」


 大悟が振り向いた先には、照れながら賞金を手にする、姫美子の姿があった。そんな姫美子を拍手する凛と、


「ってか大丈夫がよ、晴真!」


 項垂れている晴真の姿も見えた。


 その後、制限時間ギリギリで凛が完食。他の三人は、完食ならずという結果となった。

 しかし、


「食べ切れなかったみんなの分、賞金から払えませんか?」


 みんなをラーメン屋に誘ったのは自分だからと、凛がラーメン屋主人に頼んだ。ラーメン屋主人は一日に二人も成功者が出たことと、凛の優しい気持ちに感動し、即OKをした。


 凛の会計を、後輩一同は外に出て待っていた。


「凛さん、みんなに甘いね」

「厳密に言えば、言い出しっぺはおめーじゃねーかよ!」

「それにしても、姫美子さんが大食いだったなんて……」

「えへへ……。バレちゃった。女性社員さんや、同期のみんなは、もう知っているんだけどね」

「恥ずかしがるところがかわいいっ! それにオレ、いっぱい食べる、きみちゃんが好き!」

「いっぱい食べぬ君は嫌い~♪」

「黙れ、要! これ以上オレに恥をかかせるな!」


 完食できなかったことを一番悔しがっていたのは、晴真だった。




 そしてその翌日。


「姫美子さん、昼、そんなに食べるんですか……」

「うん! もう隠すことないしね」


 大食いをカミングアウトした姫美子は、その日から大きな弁当を持参するようになった。 


「重箱……」


 譲は、姫美子の意外な一面に、最も驚いていた。


   


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