第10話 凛さんを語ろう!

 C-membersは、「喫茶てんやわんや」のカウンター席に着いている。


「さ、何にするか決まったか?」

「一番好きなやつ~」


 要が一郎に言葉を返すと、約一名除く残りのメンバーも、自分が一番好きなものを注文していった。


「さて、」

「んん゛~」

「今日は何にすんだ、凛ちゃん?」

「……よし! じゃあ……」




「はい、お待ちどお!」


 一郎の元気な声と共に、


「おお~」

「待ってましたぁ!」

「わぁっ! おいしそう……」

「どうも」

「さて、食うかね」


 それぞれの注文の品が並んだ。大悟のプリン(生クリームとさくらんぼ付き)、晴真のあんみつ、姫美子のチーズケーキ、譲のコーヒーゼリー、要の苺大福。


「みんな先食べてて。おれ、食べたくなっちゃうし」


 凛の言葉に、一同ハッとする。凛のそういった面を見ると、一同ハッとせずにはいられないのだ。

 

 いつものことで、あるはずなのに。


 凛以外のメンバーは、ほぼ同時に「いただきます」をし、目の前の好物を食べ始めた。

 

「凛ちゃんは、ちっと待ってなー」

「はーい」


 ニコニコ。わくわく。そんな感じで、凛は幸せそうに、一郎に返事をした。


「……受検者の見守りも、きっかけは凛さんの行いだったんですよね」


 フォークを飾る、ひとかけらのケーキを口に入れる前に、姫美子が言った。


「そうそう。そうなのだよ」

「要が偉そうにすんのは、お門違いだど」

「プリン一口、もーらいっ」

「あ゛! どごが一口だ、おめ!」

「やーいクソディーゴ」


 「また始まった」状態の要と大悟の横で、晴真が口を開く。


「警察官を目指していたけれど、試験日に会場へ向かう途中、弱っているおばあちゃんを助けて試験の時間に間に合わず、警察官になれなかった。そしてその行いがCMのお偉いさんに認められてCMに入社……。そのイケメンエピソードから、今回のような仕事が始まったんだよな」

「警察が凛さんの行いを認めなかったってことが、信じられませんね」

「顔怖いよー、譲ちん。いーじゃんよ、それで今、ボクらの凛さんがいるんだし」


 怒りを隠しきれていない譲に、要が言った。そして、


「オ、オイラもよぉ!」


 いきなりの大きく湿った声。ほとんどのメンバーがビクッと顔を向けた。


「凛ちゃんがいな゛げりゃ、今ごろオイラ、店やってねーよ! 凛ちゃんが仕事帰りにここに寄ってくれたこどで、おいしいおいしいって何度も来でくれだごどで、オイラ続けられだんだ! 客の来ねぇガラッガラな店に、いつもいつも来ていたんだぜ! おかげで今、繁盛してらぁ! くぅぅっ!」


 メンバーの話が耳に入って、わざわざカウンターまで戻ってきた一郎。涙と鼻水と流しながら、凛に救われた話を始めた。


「いっちゃん、泣かないで」

「おうっ、要! ありがとよ」

「あのさ、泣いている暇があったら、手を動かしなよ」


 ここで空気が凍り付いたのは、言うまでもない。


「な、何だとぅっ!」

「そんなに凛さんに感謝しているなら、早く作ってあげなよ。いつまでも待たせちゃ、かわいそうじゃん」

「うぅっ……、そ、それは……」

「それにその話はもう百回は聞いているから、いい加減にしなよ」

「こいつっ!」


 したり顔の要に、怒りを露わにする一郎。二人の顔の間では、火花がバチバチ。


「ほらぁ~、そんな怒った顔でスイーツ作っちゃ、ダメだよぉ~」

「このやろっ……! 覚えとけよっ!」


 一郎は捨て台詞を残して、作業へと戻っていった。すかさず、譲は要に言う。

 

「泣いている人に、よくあんなこと言えますね」

「ホントのことじゃん。だって、みんな見てみなよ、凛さんを」


 要にそう言われ、四人は要が指差す方を見た。そこには、


「はぁ~、楽しみ……」 


 目をキラキラさせながら、注文の品が姿を現すのを楽しみにしている凛がいた。


 そうだ、凛さんは大の甘党だった……と再確認するメンバーであった。




※CMは、COOLMANの略称。


 


 

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