第5話 「ハイエナ」「ナルシスト」「トンファー」「ファル真」「待って、それはさすがにダメじゃん?」

「頼む、そこをどいてくれ……! 金は後で払う……!」

「信用しねーよ!」

「兄ちゃん……!」


 とうとう兄が三人組に殴られそうになったそのとき。


「ダメだよ!」

「……は?」


 兄妹と三人組が一斉に振り向いた。その先には、三人組の動きを止めた声の主。その声の主の周りには、彼についてきた者たちが五人。

 

「そこのお兄ちゃんと妹ちゃん、今から英検受けるんだよね?」


 凛の問いに、首を縦に動かす兄妹。


「そっか……」


 凛は柔らかく微笑む。そしてまた兄妹に問う。



「二人共、今日まで勉強、よく頑張ったよね?」


 これにもまた、頷く二人。


「その頑張り、ちゃんと発揮できるから! 安心して!」

「何だぁ? 邪魔すんじゃねーよ、おっさん共!」


 ピクッ。


「誰がおっさんだガキ共! お兄様方は、まだピッチピチの二十代じゃあぁぁぁっ!!」

「うわっ、復活はえーな、おめ!」


 のびていた晴真が三人組の罵声に反応し、起き上がった。それを見て大悟は驚いた。


「これ以上オレたちの邪魔するならな……、」


 三人組の一人(以下、三人組A)が、衣類に忍び込ませていたハサミを取り出し、それを強く握って、走り出した。


「お前ら全員ぶちのめ……っ!」


 そのとき、三人組Aの声が途切れた。


「されんのはどっちだ、クソガキ!」


 三人組AがC-membersのもとに着くことはできなかった。なぜなら、


「若いくせに遅いんだよ、お前!」


 三人組AがC-membersに向かっていった直後、晴真が三人組Aに攻撃を加え、一撃で打倒したからだ。晴真は自分の武器であるトンファーを取り出し、素早く三人組Aの鳩尾をめがけて、一撃加えたのだった。


「さすが元陸上部だね晴真! 速い!」

「急所に一発……これは効くど」

「やるねー、ハイエナ」


 凛、大悟、要からの、晴真への称賛の言葉。「良かった」と言いながらホッとする姫美子。静かながら、笑みを浮かべる譲。自分大好きな晴真のことだ。振り返り、ドヤ顔でピースサインを決めない訳にはいかない。


「お前、それがなけりゃ良いのにね」


 要の容赦ない一言に、ズコッ。


「そんなんだからさ、せっかく捕まえた獲物女の子にも、すぐに逃げられるんだよ」

「余計なこと言うな~っ!」

「まあまあ。かっこよかったって晴真」

「褒めている暇はないですよ、凛さん」


 宥める凛に、譲は忠告する。


「よくもやりやがったな……」


 いつの間にか、三人組の残った二人(以下、三人組B、三人組C)が、C-membersの前にいた。


「もうこの際、あいつらのことはどうでも良い! お前らをぶっ飛ばす!」

「そんなに気合十分なら、晴真から先にやっつければ良いじゃん?」


 ギクッ。


「や、やめどげ要……」

「晴真が強いって分かったら、即こっちに向かってくるなんて、とんだチキン野郎だね!」


 ギクギクッ!

 これまでに、大悟の言葉で要の毒舌が止まった試しがあったか。


「晴真! その二人を試験会場まで連れてって! きみちゃんとディーゴと一緒に! 」

「了解です!」

「きみちゃん、行ぐか」

「はいっ!」


 三人組B、Cが要の口撃に怯んでいる隙に、凛はメンバーに指示をした。


「行こう! マジで時間がやばかったら、オレが二人を抱っこして負ぶって、全力で送り届けるから!」

「そうなったらオラときみちゃん、一緒にいげねーな。はえーもん」

「あ、ありがとうございます!」

「……」


 お礼を言う兄。そして、まだ不安そうな妹。

 

 ポンッ。


「……!」

「もう大丈夫よ」

「……うんっ!」


 元気になった妹。小さな頭に乗せられた姫美子の手と、小さな耳に響いた優しい言葉。頼もしい心の支えだった。

 

「また後で!」


 大悟が手を振る。凛に指名された三人は、二人の兄妹と一緒に、目的地へと急いだ。


「頼んだよ!」


 凛が大きな声で言った。


「あ! いつの間にか減ってる!」

「くそー、逃がしやがって……!」

「抜けてる……」

 

 想像以上ののろま加減に、要は笑う。


「……まあ仕方がない」

「お前らは潰す!」


 今度は、要の言葉が耳に入っていない様子。


「……それじゃあ、俺たちも仕事しますか……」


 譲は変わらぬ真面目な表情。それに対し凛は、


「うん!」


 柔和な顔が、きりりとした顔つきに変わった。

 譲と三人組B。凛と三人組C。それぞれ向かい合っている。


「やっちまえーっ!」


 三人組側が声を発し、それが戦闘開始の合図となった。

 そしてその後ろに、


「ちょ待てよ、ボクは用済み?」


 要がいた。


「……まあ、楽しみは後に取っとくかね。好きにやっちゃってー」 

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