第4話 ただ、どうしようもない話
この話は現在進行形である。
現在勤務中の職場なので、なるべく特定されないようボカして書いてみたいと思う。
これは第一話の後日譚、あるいは続編ということになるのだろうか。
といっても少々問題がある。
私自身がちっとも怖くないのである。今まで述べてきたように「とにかく何だか怖い」私に、あの居ても立っても居られない感覚がない。
しかし、この場合怖くないのが実は怖いのかもしれない。
結論から言うと、現在勤務中の会社にいるという話だ。
第一話の経験から暫くして、私は職を得た。小さなメーカーの事務職である。
で、早々に辞めたくなった。
理由についてはあまり愉快な話ではなく、長々と愚痴を聞かせることになるので省略したい。
実は面接に行った時点で「ここはナシ」と判断し、二~三日後に断りの電話を入れるつもりだった。
しかし程なくして「憑いてますよ」騒ぎになってしまい、そっちに気を取られうっかり忘れてしまっていたのだ。
採用の連絡が来たとき断ろうかと思ったのだが、つい流されるまま勤めてしまった。
長い就職活動に疲れて判断が甘くなってしまっていた。後悔したがもう遅い。
もっだもっだ悩んだ挙句、出した結論は「占いでも行ってみるか」だった。
まあ、吐き出したかったのである。愚痴りたかったのだ。
行ったのは第一話で登場した占い師の所である。
あの時、なにも言わぬうちからあの場所を的確に図にされた。素直に凄いなぁと思っていた。
しかし、別に「今の会社何かいると思うんです……」などと観てもらいに行った訳ではない。
そんなこと全く頭になかった。何故なら会社にいても全然怖くないからである。
しかし、普通に会社での揉め事や人間関係の話を愚痴っていると、占い師がいると言い出した。
それを聞いた私の素直な感想は「はぁ?いや――でも……ちょっと幾らなんでも……」だった。
こう続くもんですか?流石に胡散臭い。それに怖くない。
占い師の言によると、
・事務所奥の社長室の扉前に男性が浮いている。この男性は神経に障り、社内の空気がギスギスしたものになる。
・事務所内に階下から斜めに道が出来ている。それは煙突のような物で、そこから階下の溜まった念が噴出している。
これに当たっているのは体に悪いし運が落ちる。
……なんだか心当たりがなくもない。
そもそも会社を辞めたくなった理由は、社長を始めとする人間関係の悪さ、そこから波及する仕事のやりにくさだ。
何をするにもスムーズに行かない閉塞感があり、働きにくい会社である。それでも業績は上がっているのだから思えば不思議だ。
そして確かに体調もよくない。しかし元々持病持ちだし、環境のいいと言えない会社で慣れない仕事によるストレスだと考えていた。
その”階下からの煙突”の吹き出し口はどうも私の座っている席の裏側から伸び、私の椅子に直撃してるそうである。
実は私がそこに座ったのはごく最近で、前に座っていたのは私より半年ほど前に入社した事務員さんだった。
彼女は入社して一ヶ月も経たないうちに突然倒れ入院。今でも通院と投薬を続けている。
その他いろいろ細かい事も思い当たったが、そこで考えるのは止めた。何でも霊と結びつけることになりそうだったからだ。
対処の方法を聞くと、観葉植物を置くのを勧められた。植物が念を吸ってくれるという。
「でも、それだと観葉植物枯れてしまいませんか?」
「まあ、枯れます」
却下だ。枯れてしまうと分かっているのに気の毒で置けません。それに枯れる度に新しいのを購入するも不経済ではないか。
「岩塩もいいですよ」
岩塩でいくかなと思った。が何を置くにしても職場の上司とかに「何これ?」と聞かれるだろうし、答えに困る。
この辺りで占いは時間となった。結局仕事を続けるか転職するかの占いは何処かへ行ってしまっていた。
まあ、そんなモノのいる会社なら転職かなとも思ったが直ぐできる訳でもない。当面の厄払いをどうするかだ。
当初は身代わり地蔵とか身代わり守とか、そういうお守りで身代わりになって貰おうと考えた。しかし行動範囲で探してみても意外に無い。
そこで、今までカバンに入れていた氏神様の厄除け守を、小袋を縫った物に入れ体に付けることにした。
今回の件でいろいろ調べていると、お守りは体の中心を通る正中線上に身に付けるのが一番効果的ということを知ったからだ。
効果のほどは分からない。そもそも最初から実感がない。
私の席は、社長室の扉が嫌でも目に入る位置だ。
占いに行ってから二~三日は流石に怯えていたが、今ではなんだか慣れてしまった。
凝視して何か見えるか試してみたりもした。別に何も見えない。
私は占い師に話を聞くまで、居るなどとは全然思っていなかった。そして今でも、完全には信じ切れていない。
ただ、占い師に担がれているとも言い切れない。状況として当たっている所もあるし、高額な祈祷やお払いグッズも売り付けられていない。
結局の所こんな話は会社で話せるものではない。「病気は霊の所為ですよ」なんて言える訳無いではないか。
口を噤んで私は、あの会社でただ一人厄除けをしている。仕方ないと思うが仄かに苦くやるせない。
あそこは全然怖くない。が、悪意のある怖いものは正体を見せないとも言う。詐欺師だって優しげな顔で近づいてくるではないか。大人しいからと蛇をつつくような事をしたら、いきなり怖くなるかもしれない。
そして、そうなったら手の施しようもない事態になるかもしれない。
「かみさまおまもりください」と祈った時とは間逆の状態である。怖くはないが何か居るという経験だ。
そして説明のつかない「とにかくなんだか怖い」という感情は、やはり大事なものなのだなと思う。
感情にくるものがないと、どんな状況でどんなことを言われてもちっともピンとこない。
私は一人安全地帯に逃げ込んでいるのか、それとも居もしないモノに無駄に気を揉む道化なのか。
なんとも言えない中途半端な話である。
しかし、それでも怖い話が好きだ。
このような手の付けようも無い話に最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
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