第3話 かみさまおまもりください
繰り返しになるが、いつも私は只怖いだけである。
これまで述べた体験はとりあえず解説者がいて謎解きをしてくれたものだが、この体験は裏が取れないので、今考えても「あれはただ臆病風に吹かれただけなんじゃないか」と思う。
もうかなり前になる。
その時住んでいた所はJRの駅から7~8分の所だった。
大体どこに行くにも、その駅から電車に乗って出かける。駅を越えた所に商店街があったが、そこで買い物する時は大通りを歩いて行く。
だから、そこを通ったのは本当に偶々だった。
どこに出かけたのかは忘れたが、駅の反対側から自宅側に向かって徒歩での帰宅途中。
住宅街を抜けて、大通りから一本南にずれた位置で線路の高架下をくぐった。
高架に沿って住宅が立ち並び、高架を挟んだ反対側は原っぱで、金網で囲ってあったと思う。
高架の真下にはニ、三点の遊具がある。子供が遊べる小さい広場になっていた。
高架下は左右にどこまでも薄暗く伸び、その広場も日が差さない。
誰もいなかったが、普段からそこで遊ぶ子っているのだろうか……と思える位、そこは暗く静かだった。
そこを抜けると小道に出る。
季節は夏、時間は夕方の四時か五時位で天気は晴れ渡っている。道は明るく、なんだかさっきの広場とは気温から違っているように思えた。
気持ち良い散歩道だった。もう家はすぐそこだ。
突然後頭部から背中、足元に震えが走った。後ろから何か来る。
思わず振り返るが、塀と草の茂った原っぱに挟まれて明るい小道が延びてるだけである。
でも何か来る。とにかく追ってくるという思いは消えない。
こんなに日が照って明るいのに――時刻的にはそろそろ黄昏時――でも夏は日が長い、現にまだこんなに明るいのに。こんなに明るいのに。こんな何てこと無いただの道なのに。どこにでもあるただの道なのに。
風で草が一斉に靡く。
草が揺れざわつく音が耳に届くや否や、もう駆け出していた。
「かみさま。神様おまもりください。お守りくださいっ……!」
無我夢中で口走っていた。結局何事も無く大通りへ抜けられたのだが。
誰一人居ない道だった。
何故か「変質者が追いかけてくる。」という考えが頭をぐるぐる回っていた。
しかしこれは、やはりもうどうかしいる。こうして文章にしてても、常軌を逸しているとしか思えない。
だってもし「かみさま!」とか叫びながら向こうからかけてくる女性がいたら、これは係わり合いになってはいけない人だと誰でも考えるよ普通。
私だって絶対思う。自分自身の事とはいえドン引きだ。
だが、恐怖だけは本物。
あの清々しく爽やかな夏の道で、私は居ても立ってもいられない程怖かった。
これが悩みの種である。
ナニか怖いものがいたのか、それとも私がとんでもなく臆病者なのか、判断がつかないし考えたところで結論は出ない。
しかし、もし同じシチュエーションに陥ったとして――友人知人が居合わせたら。見られてしまったら。
私にだってささやかながら、社会的立場とか世間体とか有るこた有るのだ。
世間体か恐怖か。その葛藤を想像しただけで、もうぐったりだ……。
人目も憚らず駆け出さずにいられない恐怖になど、金輪際会いたくない。
それこそ神仏に祈らずにいられない。
このような他力本願な話に最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
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