♯47 お仕舞い

これは俺の戦争……とは言っても裏側で起こった闘争だから、ほとんどの市民は知らない事だ。


俺、五十和拓舞は【害蟲】と呼ばれる生物となり、犯罪などを犯す他の【害蟲】を取り締まっていた。

だが自らの街の外に別の街が幾つもある事を知って、俺は旅に出た。

その間に妹が【害蟲】になったり、服毒したり色々あったが、俺はある街で自分の正体を知ることになった。


「お前はクローンなんだ」


自分の他に『9人の俺』がいる事が解り、そいつらの中で【異種】なる者が自分以外の全てを破滅させる計画を立てた――――。


俺は家族や友人の為に、その計画を阻止する事にしたのだった。




銃声。

俺が放った銀色の弾が、俺の額を撃ち抜いた。

「爬虫類、か…………」

あと3人の首を獲れば、晴れてお仕舞いだ。

俺自身を射殺するのは気が引けるものの、これもすべては俺自身の為だ。


何もかも、この結末の為に仕組んだのだ。

恐らくは、オリジナルの俺が。


拓舞のクローンが同じ拓舞のクローンをたおし、その野望を食い止める物語を、彼は自ら創り上げてしまったのだ。

そしてその尻拭いを、蟲の俺がさせられている――――。

そしてその物語も、クライマックスに迫っているのは明らかだった。


のだ。

類が呼ぶのは友か、かたきか。

多分後者の気配が、何処かから俺を見ている…………。


「――――いい加減出て来い」

「バレてたの、残念だわ」


懐かしい声だった。

それはふわりと白髪をなびかせる少女の声。

レノだった。


「……何で、ここにいるんだ」

「それは私が【哺乳類】だから」

「!!」


まさか。

俺は絶句せざるを得なかった。


「唯一の女性型クローンであり、その特性は【情愛】と【謀叛】…………。

既に情愛は育った。後は刈り取るだけ」


「止めろ、止めてくれ……。

お前はそんな奴じゃ無いはずだ!!」

「いいえ、ごめんなさい」


絶望。

瞬間訪れた感情はそんな、最悪のものだった。


「そうか……。」

顔面を蒼白させる俺に無慈悲に、それは向けられた。

冷たく硬い銃口が、視線より上から額に当てられたのだ。


「アナタが殺らないなら、私が殺るまで」


もうそこに、レノはいなかった。

ただ異種の野望を補佐するだけの、哺乳類。

そう認識した時、知性など不要だった。


獣のように四肢を駆り、即座に口でレノの握る拳銃を奪い取る。

「ごめん、お前の事は撃てる。だってお前は、最後の最後でレノじゃなくなってしまったから」


そう告げ、標準を合わせもせず引き金を引いた。

そして耳と心にこびりついた少女の残響を殺すように、もう1発残りカスに発砲した。


もう俺には、何もなかった。

人として生きる理由も、らしい心も。

目標とすべき敵も、背中を預ける味方も。

善悪の区別も忘れ、ただ1つだけ。


『【異種】だけはたおす』


その意志が無意識に俺の身体を動かした。

気が付けば深夜。街灯の照らす五十和家の前に立っていた。

『元我が家』と俺の間には、1人の女。


「ずっと待ってたよ、五十和拓舞」

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