♯45 五十和の秘密

拓舞のいなくなった街に、砂の吹き荒れる春がやって来た。

会長は嫌な寒気がして、部屋の暖房を入れる。

「…………」

手と手とを擦り、窓の外の空を見上げた。


厚くむらがった雲が覆った、曇天。

街に影を落とす、雪雲が揺蕩たゆたう空だった。


「……拓舞くん。私はどうして、こうも寂しいんだろうねぇ?

この街も、君がいなくて寂しそうだよ……」


と、ルークがノックもせず部屋に来た。


「ルーク。何故ノックしない?」

「黙れペテン師。貴様を逮捕するッ!」


【会長】こと私・神江かもえけんはこうして身柄を拘束された。


最初こそその目的が判らなかったが、質問されるたびに輪郭がはっきりとしてきた。


「――――では次。

貴様は五十和拓舞とどういった関係だ?」


「……そうか。やっと完璧に解った。

お前たち、んだろう?そう言えば教えてやるのに」

「罪人の分際で口答えするなァッ!!」


取り調べ担当の【害蟲】が神江を殴る。

だが神江は高らかに笑い転げ、言った。


「教えずに殴られ死ぬ事も出来るが?」


挑発的な眼、ニヤニヤと網膜にまとわりつく顔に苛立った【害蟲】は、再び殴る――――と思いきや腹に1発蹴りを入れた。


「蹴られても同じか?」

「ははっ、口の上手さは同等か?

……まぁ良い、教えてあげようじゃないか」




「五十和家の血筋は、既に絶えている」




その頃、ジューダの街にいた拓舞。

【偽獣対策本部】会長の拓舞と、『本物の拓舞』の部屋に訪れていた。


そして、その更に奥、1枚の鉄製扉が。


「……あの扉は?」

最早自分という生物に諦めがついた拓舞は、戻れなくなる覚悟で問うた。


「あの奥には、拓舞の遺体がある。

そこからかつて、全部で10人のクローンが造られた」

「それの中の1人が、俺なのか……?」


そうだ、と会長拓舞は答える。

「魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、甲殻類、軟体種、蟲種、植物種、そして異種。

この10人のクローンは初め、同じ土地を守り、種を保全する為に造られた。

しかし、異種だけは平穏を望まなかった。

奴は他のクローンと根本的に違う種だ。

摂理を無視出来る能力で、他の9人のクローンとその土地を引き裂き、分離した」


「それが、今の【街】…………」


「ここ、ジューダの街は【鳥類】の街。

他に存在が確認できているのは、

【魚類】【両生類】【蟲種】【植物種】【軟体種】の5つだ」


あと4つは、あいて側だな、と会長拓舞は呟いた。


「……自分の死体を見る覚悟はあるか?」

「それで真実が知れるなら、覚悟する」


「じゃあ、開くぞ」




重苦しい轟音を撒き散らし、鉄の扉が開く。

ひんやりとした空気が、足元を流れた。


「……さ、こっちだ」

「…………おう」


二人は扉の奥の、深い深い闇へと消えた。

その先にいる『本物の拓舞』に、真実を乞う為に。

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