孵らぬ者の交響曲
♯34 きみのゆくえ
奏が姿を消して1週間が経った。
拓舞は心配で心配で居ても立ってもいられなかったが、街の修復(主に破損した排水の配管工事)が押し寄せて来て考える
「なぁ…………ちょっと良いか?」
と、突然、隊員の一人――――名前は確か、
「五十和……だったっけ?キミに話があるんだけど、時間大丈夫?」
「……別に、構いませんけど……」
俺は向城に作業していた腕を掴まれ、そのまま地上へと出る。
乾いた風が競走している、天を突くように並ぶ何とも無感情な灰色のビルに思わずため息が出た。
「実はさ、俺の奥さんも【あっち側】から来たとか言って消えたんだ」
灰色がどす黒く濁った。
不明瞭に変わった視界に一滴、疑問が
「……【あっち側】って、壁の向こうか?」
向城は何も言わず、頷くだけ。
「一体、何だって言うんだ…………?」
「…………私にも分からなかったな。
【あっち側】という言葉の意味が」
会長はルークに問われ、そう答えた。
ルークは、疑問よりも怒りが先に頭を走った。もともと頭に血が昇りやすい性格ではあるが、それ抜きにしても許せなかった。
「【あっち側】、か…………」
【連合】本部から見えるのは本物かさえ疑わしい空と、堂々と佇む【刻紋壁】。
壁を睨みつけ、ルークは呟く。
「……行けるか……?」
壁の
何故、私に何も言わず消えてしまったのか。
兄ちゃんは何か聞いた様だったが、教えてくれはしなかった。
奏、応えてよ。
私、寂しいよ――――――――。
向城は灰色の中で、拓舞に言った。
「俺の奥さん、もう死んだんだ。
酷い
世の中に、そんな死に方があるのか。
「とても言い辛い。
……思い出すだけで、吐き気が……っ」
聞いているこちらも吐き気がしてきた。
『確かにそうだ』と思ってしまった自分が、人間としてどれほど麻痺しているかを自覚してしまったからだ。
そしてそれが同時に、自分がもう人間でない生物だと言うことも思い出させた。
【蟲】としてはこの上ないのかも知れないが、俺はあくまでも人間として生きていたかった。でも、もうそれも叶わない…………。
「……妹さん、失いたくないだろ……?」
「当然だ!あんな失踪の仕方、納得いくはずないだろ!?」
「……だな。よし、【取引】しよう。
俺はきみを手伝う。その代わり、終わったら願いを何でも1つだけ訊いてくれ」
「…………乗った」
こうして、拓舞と向城の【あっち側】への旅が始まった――――。
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