♯33 小休止

「――――何故だ」


拓舞は無感情かつ吐き捨てるように、ルキナの息の根を止めた奏に問うた。


「だって壊れてたじゃないか、あんな奴から真実が訊けるなんて、到底思えないね?」

「それはお前個人の意見だ。――――会長、【あの話】、もう話しても良いだろう?」


拓舞が呼ぶと、排水路の陰から会長が現れた。何とも言えない表情をしている。

「やはり、言うべきなのか?」

「仕方ないだろ。世界の重要な真実を誰も知らないのは、おかしいとは思わないか?」

「――――やむを得ないな」


会長はそれ以上何も言わなかった。

「なぁ皆、この世界の端は【刻紋壁】で区切られていて、外側には蟲の支配する世界が広がっている――――。

そう、教えられてきたよな?」

戦闘員が一様に頷く中、拗ねた顔で首を振らない奏。


「あの壁の向こうには――――何もない」


響動どよめきが地下に響く。

水面みなもが震え、映った奏の無表情がぐちゃぐちゃに歪んだ。


「砂漠も海も森も、果てすらあるわけじゃない。壁一枚隔てた先は、完全な【無】だ」


「――――嘘八百も良い所だよ、兄貴」

奏が突如口を開いた。


「私は、【あっち側】から来たってのに」




翅が鳴り、一瞬にして奏が姿を消す。

「――――拓舞くん、今のは本当かい?」

「分からない。少なくとも俺の記憶に、奏が【刻紋壁】を越えた覚えはないからな。

だが…………」

「だが?」

「【刻紋壁】に事なら何度もある。それが悪影響を及ぼしたのだとしたら、今の言動も分からなくもない」

「つまり、真実ではないと?」

「はっきりと言えないのが悔しいけど、あれが真実じゃないと信じたい」


血まみれになった戦闘員を連れ、【連合】は都市排水溝を脱出した。



この戦闘で【連合】は今回の事件の主犯、【〇】ことルキナの討伐に成功、遺体は回収され研究資料として保管される。

こうして我が街は表向きは平和を奪還した。が、重要機密を保持していると思われる戦闘員・五十和奏が逃亡、失踪。

都市の安全性向上の為、彼女の持つ情報を早急に確認したい所である。


そしてこれを機に、コードネーム:シレンこと五十和拓舞が【連合】戦闘員に復帰した。

会長の名により無罪放免、【鍵蟲】の血を持つ重要機密の1つとして扱われる事となる。




更に、五十和家の安全については会長自らが保証するという。

血液を検査にかけたところ、五十和家は全員が【鍵蟲】の血を保有している事が明らかになった為だ。

特に【害蟲】の力を使えない母・響歌に関しては、しばらくの間【連合】の者が護衛に就く事で、彼女の安全性を高めた。


そして【〇】討伐からわずか1週間。

五十和家を巡り、再び【連合】は揺れる事となるのだった――――。

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