♯31 見えない

あと6日で、【〇】が来てこの街は終わる。

そればかりが頭を巡った。


ルキナは確かに脅威なのだが、俺はその向こうにいる【未来】に戦戦恐恐していた。


それは【無】の脅威を乗り越えた前提での話になるのだが、仮に【外骨格】が【無】を押し返す力を有するのであれば、会長より先にその事に気が付いて、遠くに誰か別の世界を築いた奴がいるかも知れない可能性がある……という推測だった。


もしそんな奴がいたら、下手すれば、いやしなくともルキナ以上に脅威である。

ルキナは一人しかいないが、街1つ敵になってしまえば、その数はほぼ同等だろう。


見えない恐怖に怯え、そして自ら目を塞ぐ。


そんな感覚の中で過ごす1日は、酷く退屈で疲労感を積み上げていくだけだった。




カレンダーの【×《バツ》】が1つ増えるたびに、【ゼロ】の襲来を知る者の緊張は高まっていく。

襲来を知らぬ者にさえ、とうとうその緊張が伝染して行きつつあった。

見えない脅威はその手を、そっとこちら側に延ばして来ている。




そしてそんな不安が渦巻く『襲来』3日前の事、【連合】に【害蟲】が二人加入した。


かなみことである。


蝶と蜻蛉、その【害蟲】の来訪に会長は酷く喜んだ。

長距離飛行ができ、強大な風圧を生み出せる【蝶】。

高速飛行ができ、皮膚の硬化【外骨格】を生成できる【蜻蛉】。

それは作戦の穴だった部分を埋めてなお余る、貴重かつ優秀な戦力だったのだ。


「これより【害蟲】による【〇】討伐作戦の詳細を伝える。皆、今日この時から隣に常に敵がいると思っておきなさい」


会長の言うその言葉の真意を知る者は、その時はまだ会長しかいなかった。




拓舞はその日、【連合】のやり方とは違う方向で【〇】への対策を完成させた。

自分が討伐した【害蟲】の細胞を摘出し、縫い合わせて人型を造ったのだ。

そこに自らの細胞も埋め込み、遠隔操作出来るようにしたのである。


「……さぁ、お前らを造ったご主人の――――俺の【右腕】として働いてくれ」


その眼が開かれる。


「私たちは、貴方の【腕】――――!!」




日は暮れ、街も黄昏の頃。

排水溝の奥底、密かにうごめく影があった。

「…………あれ、何故君がいるのかな?」


影の奥で1人、不敵に嗤う女性。

彼はその女性が誰かを知っているが、その姿が少々変わっていたのには驚いた。


「……良いでしょう?貴方の為だけに、色々試して回春したのよ?」

「生憎だけれども、私は幼女愛好家では無いよ?前の方が良かったかな、個人的には」

「あら残念だわ、努力が水の泡。

ま、これくらいで動じる貴方では無いわね、【会長】」


幼くても十二分に長い金髪がふわりと香る。

かすかにす陽の光に照らされて、肌の雪色が燃え上がった。




「さ、【契約】を果たして貰うわよ?」

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