♯25 零点下の領域

「……計画……?」

突如現れたルキナに、俺の発した第一声であるを

「あら?そこの坊やは何方ドナタ?」

「……私の【被験体】だ、手を出すな」


「その願いは聴けないわね。

裏切った事への償いを、払って貰うわ」


高速で振り下ろされる腕を、すんでの所で避ける。

「あぁ、もう『成っている』のね」

「悪いか?」

「いいえ、最高じゃない!!」

さらに速く今度は横に、挟む様に両腕が振られる。しかしそれも、俺はギリギリで避ける事が出来た。

すると嬉しそうに、ブンブンと腕を振り回し始めた。歓喜と狂気に満ちた眼で、俺を斃す事に快感を感じているようだ。

「良いわ……とても良いわよ【会長】!!

貴方の造ったこの子、凄く良いわッ!!」


最早振られる腕は弾幕の如く、俺の息の根を止めようと襲い掛かってくる。

避け続けるのも、限界が近づいていた。

害蟲おれ】の能力の1つ、鱗粉を腕にだけ出し、俺を襲う他の腕を避け、そのうちの一本を弾いた。

「――――――――ッ!??」

突如自分を襲う異物の感触は、相手を怯ませるのに十分だった。

一瞬だけ隙がある、それで十分だ。


瞬発的に出したはねひるがえし、2メートルの間合いを一気に詰める。


「――――」


鱗粉の毒をまとった拳を、全体重を乗せて放つ。

間合いを詰めた勢いも加わり、拳は通常の何倍もの威力になった。


もろに受けたルキナは吹き飛び、血反吐を辺りに撒き散らして倒れた。

「……やった、のか?」

辛うじて生きている様だったが、 見る限りおよそ抵抗は出来なさそうである。

腕や体はあらぬ方向に折れ曲がり、美しい顔は眼も当てられないほどの壊れ方をしていた。改悪整形の方がよほどマシである。


「……ぅ……げゅ……ざ…………」


ひび割れた顔面は怒りで滅茶苦茶に潰れ、最早原形など微塵みじんも残っていなかった。

さすがに会長もきれを見て気が引けたのか、眼を皿のようにして黙ってしまった。


「……hん……き、だぇそぅj……!」


人語すら喋れなくなった彼女は、しかしむくりと起き上がる。

「Kkkけkkけけkkkkkkhhははhkhwww!!?」

壊れていた。

ガクガクと機械的に痙攣けいれんし、人としての姿を留めておけなくなって変形し始めた彼女は――最早性別すら不必要ではなかろうか――、【害蟲】としての姿を完全に顕現させ、再び俺と会長の前に立ち塞がった。


その姿はまるで、悪魔。

いつか本で見た、『蝿の王』のような……。


「彼女は【こんちゅう】第1号の【試験体】……。

あの実験は失敗したはずなのに……何故」


会長の呟いたそれすら、耳には入らない。

それほどの威圧をもって、彼女は俺の命を絶とうとしていた――――。

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