♯24 猜疑

「…………もう覚悟は出来ている。さぁ、何なりと言ってくれ」

原因を粗方あらかた読み終え、会長はそう俺に言った。


会長が【害蟲】を創った……。彼の手記の内容を全面的に肯定するならば、そうなる。

という事は、俺もまた…………?


「1つ断っておくが」

「……何です」

「私は君を造ってはいないよ。どうやらそれで揉め事があったらしいから教えるが」


まるで心を隅々まで覗かれたような気分だった。

揉め事まではいかないが、俺がダンデと議論した事も、この男にはバレている…………。


「……じゃあ、1つ」

「うん?」

「そのルキナ、って奴が【ゼロ】なのか?」

「そうだ。狡猾こうかつ傲慢ごうまん、欲深くしたたかで、しかしそれすらかすむほどの美貌を持った悪魔さ」


そこまで美人なら是非お目にかかりたいものだ。――――そうなのだが。

語る会長の顔は、糞味噌クソミソに言う割にどこかうれう様な、そんな表情を浮かべていたのである。

「……まさかとは思うが、れているのか?」

「悪いかい?悪女ほど棘のある美しさを持つ人種はいないだろうに」

悪女ほど愛に無感情むかんじょうか、あるいは病的執着を持つ人種もいないと思うのだが、如何いかに。

まして恐らく、ルキナは前者である。


「……仮にもソイツは世界を潰そうとしている奴だぞ?顔が良くたって中身がスッカスカじゃないか、それで良いのかよアンタ」

「むしろそこが良い!!」


ああ、駄目だ。

腕の立つ医者を探そう。きっとそれが良い。


俺は会長の有り様に呆れたが、1つ気になる事が出てきた。


「……なぁ会長」

「…………何だね?」


「……?」


「私は蟲嫌いだよ、忘れたのかい?

……そもそも、何でそんな事を聞く?」


「いや、初期加入者でルークだけ【害蟲】っておかしいと思っただけだよ。

そういうのは普通、からな」


すると会長は突然、高らかに笑いだした。

「いやぁ、そこまで解ったならもう、言う事は無いな。――そう。私も【害蟲】だよ」


やはり、か。

俺は仮定としてルークとルキナが【害蟲】だった場合、会長だけ普通の人間なのはおかしいと思っていたのだ。

蟲嫌いと言っていたのは事実ではあるのだろうが、どれほどまでかは察しかねる。


「私は鍬形クワガタの【害蟲】でね」


会長はそう告げながら、机から離れこちらへ歩いてくる。

「解ると思うが、ルキナは――――」


と、声をさえぎる爆発音。

「何だ…………っ!?」




「お待たせ、【会長】。

あの時の約束、こうして果たしに来たわよ」


陽の光に照らされ輝く髪は、染めたのか黒に変わっていた。

猫眼がこちらを見据え、静かに様子をうかがっている。


「さぁ、《あの》計画を始めましょう」

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