♯23 最強

【連合】本部に誘拐された。

何故――――という疑問が頭の中を渦巻いたが、それを会長に問えど答えてくれない。

俺はそれらしい理由を聞かされる事もなく、ただ従わされるだけだった。

俺はそして今、兜虫のルークと共に会長の部屋の前に立っている。


<……怖いか?……>


言えない。怖いなんて言えない。

そもこのルークが、怖くない訳がない。

2メートル近い長身が、筋肉の装甲で完全武装したようなナリをしている。それだけで十分、恐怖の対象に成り得ると思うのだが。

彼自身はそれを意に介せず、グフフと笑う。


<……まぁ、もうすぐ来るぞ……>

「え?」


会長が、扉の向こうからやって来た。

「やぁルーク。連れて来てくれたんだね」

<……チョロいさ、戦闘に比べれば>

「まぁ、入っておくれよ。立ち話も疲れるだろう?」


部屋に案内され、俺とルークは案内されるがまま誘導されていく。




「……さて、拓舞くん」

シレンと呼ばないあたり、【連合】からはとっくに除名されているのが解る。


「時代も事態も変わったんだ。ルークは先に説明したから解るね?

……拓舞くん、君との追い駆けっこも中々楽しいけれど、そう遊戯にかまけている場合では無くなってしまったのさ」


「……何があったんです?」

人の逃亡を遊戯と言ってしまう会長も会長だが、俺は彼の言う『事態』が何なのか気になって仕方無かった。

自分のやり方を貫くタイプの彼の意思を、ここまで捻じ曲げる事が可能な事態は10も無いと思うからである。

相当差し迫った用件なのだろう。

ヘラヘラ笑うその顔に、しかし余裕は無い。


「……君にはまだ説明していなかったね。

まずこの【連合】には、秘密裏に付けられた序列がある」

「ルークさんはその中で一位。強さや加入順で、その序列は変動する、という事ですか」

「よく解っているじゃないか。

ルークはだから最強なのさ。ちなみに、拓舞くんは自分の序列気になるかい?」

「今は遠慮しておきます」

自分は仮にも除名された人間なのだ。

それを聞くのは良くない事だと思うし、何よりそんな場合じゃないだろう。


「まぁ、自分の立ち位置が解るのは良い事だね。

……もう1つ、序列の真の頂点は一位ではない」

「!?」

さすがに耳を疑う。序列というのは1から始まるものではないのか……?

「出来れば隠しておきたかったんだけどね。……もうすぐ、序列の頂点【ゼロ】がやって来る」

「……【〇】……」

思わずおうむ返ししてしまう。

想像は出来たが、恐怖を感じないのは何故だろうか?

「……私の過去を教えねばならない日が、来るだなんてね…………」

彼は自らの机から何冊かのノートを出した。

「……これだ」

そのうち一冊をペラペラとめくり、そこに記された内容を、淡々と読んでいくのだった。

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