♯21 植えられたもの

「……え?」

「だから、害蟲が造られた時だ、って……。あぁ成る程、【害蟲】がだと知らなかったのか」


人工的生物。

その語句が意味するところを、拒絶している俺がいた。

理解は出来た。出来たが故の拒絶である。


「……俺が、造られた……?」

「正確には、【害蟲細胞】が科学的手順によって製造された物だということだ。

それを投与された生物は、たとえ人でなくても【害蟲】と成り得る」

ダンデはそう言うが、俺は自分の歩んで来た人生さえも根底から疑わざるを得ない。

もしそれが本当であれば、『君の人生は最初から操作・管理されていた』と言われても信じてしまうだろう。

その可能性を問うたが、ダンデは首を横に振った。

「それは有り得ないな。

俺の能力でも使えば別だが、俺はその当時産まれてすらいない。

研究に加わる事自体無理だ」

……?

俺の頭には1つの疑問が浮かんだ。

「……お前の能力って……?」

「俺は馬蝿ウマバエの【害蟲】。

その能力は『意識の割譲と伝染』。……分かりやすく言えば【生物の遠隔操作】だな」


そんな事が可能なのか、と認識した途端、目の前のダンデという【害蟲】、馬場という男が至極恐ろしい生き物だと感じた。


「実は俺には任務があったんだ。失敗したがな」

「……その任務って何だったんだ?」

「君に俺の能力を使用して、遠隔操作出来るか試す。可能であれば操作して【連合】に連れ帰る」

「……効かないのか?」

「そうみたいだ」

何故だ?

俺に能力が効かないと成ると、血眼になって俺を追跡する理由が判らなくもない。

敵に回すと面倒な相手――――。【連合】はそんな能力持ちの【害蟲】を加入させ、管理していたのだ……。


だが何故だ?


馬場曰く、他の【害蟲】には彼の能力は効いたらしい。

「……蛾にそんな力があるなんて、聞いた事無いしなぁ……」

「確かにそんな蛾は存在しないな」


さすが【連合】トップクラス(あくまで自称だけど)。蟲についても詳しいようだ。

「君の他にも蛾の【害蟲】はいるが、彼らには効いたし……」

これではらちが開かないと思ったのか、馬場はダンデと成って言った。

「……まぁ、こちらでもそれは調べるが。

君も気を付けろよ。

【連合】からも野良の【害蟲】からも、その力を狙われているのだからな」

「……解った。有難ありがとうな」


ダンデはこうして、俺の中に新たな疑問を植え付けたまま帰って行った。


俺が【害蟲】の能力を無効化する能力を保有しているらしい事。

他の者が持っていないその能力を、何故俺が保持していたのか。

俺はこの時、まだ知るよしも無かった。

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