番外話② 会長創蟲紀・上

【人蟲駆除連合】会長…………という役職である以外、私、通称【会長】に関して知る者はほとんどいない。

唯一……ではないかも知れないが、あの危険物運搬のドライバー。

確か名前は五十和弦宗と言ったか。

アイツだけは色々と知っている。

だがアイツの出る幕はお預け。今回は私直々に教えてやろう。

……まぁ記録を見せるだけの形式なのは許してもらいたい。何せ生身でホイホイ出て歩くのは危険過ぎる。

ただでさえ【害蟲】の敵である私は、彼らから忌み嫌われている。

【会長】だなんて役職であるからか、なおのこと嫌がられている。

まぁ身の上話ばかりではつまらない。少し昔の話をしようじゃないか。

さて。

これはかつての私の物語。

私が背負った、あがなえぬ罪業ざいごうの物語である。



ここでは今後、この物語の鍵になり得る問題――――世間ではこういうのをネタバレというのか?その表現が正しいか否かは読んだ君しか解らないだろうが――――も出てきてしまうかも知れないが、大丈夫か?




大丈夫であれば教えてやろう。

君たち人類と、私達【害蟲】の邂逅かいこうの物語。

ファーストコンタクトの物語を――――。




私は【連合】結成前、生物学者だった。

周りの同業者から嫌われた、いわゆる『異端者』だった。

その頃は『ケモミミの生えた美少女は人為的に造れるか』という研究をしていたが、それはまた別の機会に。


私は匿名の『ある人物』から誘いを受け、その人物が指揮をる生物学的な研究チームの一員としてプロジェクトに参加した。

だが私はその時知らなかったのだ。

私の参加したこの研究が、まさか【害蟲】誕生のきっかけになってしまうとは――――。


私が任されたのは【蟲の特性強化】というセクション。

説明された通りであれば、主に昆虫などの細胞から抽出ちゅうしゅつした【特性】――まぁいくらでも別の言い様はあるが、ここではあえてそう言っておく――を濃縮し、それをラットやモルモット、段階が進めばサルに投与し、その細胞の変質を記録していく……という、そんな仕事。


だが当時その仕事の真意を知る事は無く、私はどこまでもひたすら研究に没頭した。

その勤勉さが買われたのかからかわれただけなのか、その頃から渾名あだなとして【会長】と呼ばれるようになった。




「栄転おめでとう!!」

突然理不尽にプロジェクトを解任され再び研究者に戻った私は、引き続き『ケモミミ美少女製造』の研究をしていたのだが、どこから聞き付けて来たものだか、ある日1人の女性が私の元を訪れた。


「はじめまして【会長】。私はルキナ」


金色の髪の毛を緩めに束ねた少女は、私に向かって微笑ほほえみ言うのである。


「貴方の助けが、必要なの。

――――貴方のしていた【害蟲】の研究が、奴に悪用されてしまう」


その時は何の事だか解っていなかった。

それが後に世界を揺るがすほどのものになる事も、【害蟲】の恐ろしさも。

そして、自分のしてしまった事が、どれほどに罪深いものであったかも…………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る