♯18 天国と地獄

帰属を無くした俺。

同級生を頼ろうにも、電話番号も個人チャットも知らない奴らにどう頼ろうというのか。


そうして俺は、とうとう社会から離脱した。

労働への競争からのドロップアウトである。


【害蟲】に、居場所は無いのか…………?


「無いなら、創りゃ良いだろ」とは誰が言っていた事であろうか。少なくともこの場合、そう簡単な話ではない。

創るとして、【連合】が黙っちゃいないだろう。俺は仮にも彼らに追われている身だ、そんな謀反むほんが上手くいってもお縄を頂戴ちょうだいされる事間違いなし。


そういえば、追われているのにも関わらず【連合】の気配を微塵みじんも感じない。

まさか、と1つ思い浮かんだ可能性を否定する。

この時俺がもし、その可能性をもっと肯定的こうていてきに捉えていたとしたら、後々訪れる状況も変わったのだろうか?


……いや、『もし』を考えるのは野暮だ。

それで何か変わる訳では無いのだから。


俺は【刻紋壁】に手を当てて、決意した。




「創るか、【害蟲】の楽園」

何なら集めた【害蟲】で謀反でも…………と思ったがそれは止めておこう。

統率の取れていない軍隊ほど、弱い者は無いと歴史も語っている。

経験からの統計学というのは、こういう時一番あてに出来るものなのだ。


が、そんな決意は一瞬で崩れた。

口にした言葉が、奴らを呼び寄せたのだ。


「……楽園、か。

かつて倒した【害蟲】の長も、似た様なことをほざいていたな」


そこには、何とハーネスさんがいた。

右手で、何故か奏を掴んでいる。


「この世に居る限り、お前に楽園は無いぞ」




数十分前、五十和家。

みことは怯えていた。

兄とは別の、通算2人目の【害蟲】。

ソイツが、果敢に立ち向かおうとした奏の繰り出した拳をさらりと避け、そのまま捕縛ほばくしたからだ。

助けようにも、脚がすくんで言う事を聞かない。

人類の太刀打ち出来ないバケモノ……。


「……この娘は貰っていくぞ。安心しろ、用が済めば返すし、お前達に手出しはしないと約束しよう」


「そんな約束、信じられないわね~……!」


響歌母さんの手にはデザートイーグル2丁。

最早銃刀法違反である。


「無駄だ」


一瞬姿が消え、次の瞬間には響歌の手から銃が跳ねた。

ハーネスは手に蹴りを入れ、いつの間にやら装填そうてんされていた弾を抜いていたのだった。

そうして捕った弾をジャラジャラと床に落とし、ニヤニヤと嗤うハーネスにみことは、恐怖を越えた何かを感じ、床に暖かいシミを作った。

「じゃあな拓舞の血族共よ。

……拓舞の命は保障しかねるから、そのつもりでな」


そう言って、奴……ハーネスは、消えた。

そして、拓舞の前に現れたと言うわけだ。


その顛末てんまつを知るはずも無い拓舞だが、奏の目を通して見たのだろうか。

拳に憤怒をたたえ、ハーネスに向けこう告げた。


「お前……赦さねぇ……ッッ」

「赦しを乞う為に存在はしていない」


冷たい嘲りと熱い怒り。

その2つがそして、……衝突する。

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