♯17 好奇、或いは怖いもの見たさ

何とか家に入って、俺はテーブルを挟んで妹2人、そして母さんと対峙たいじする。

何というか、空気が重い。

「……で?」

「何で兄貴はこのタイミングで」

「帰って来たのかしら~?」

3人による重圧が、俺にのしかかる。

抜群の連携で、俺はプレスされていく。

「……学校はどうしたの?」

「連絡も無しに無断欠席だもん」

「卒業は無理ね~」

ぐぬぬ。返す言葉も無い。間違っていないから余計に言葉が刺さって来る。

「……言わなきゃいけない事がある」

「おやぁ……?」

「もしかして彼女ぉー?」

「いけない子ね、母さん立ち直れないわ~」


俺は耐えかねて怒鳴った。

親の煽りで怒鳴るなんて、果たして何年振りだった事だろう。

「違ェよッ!!俺……俺は…………ッ、

……【害蟲】に成っちまったんだよ!!!」


母さんはかくとして、妹2人の方は理解出来たらしい。

さっと距離を置いてしまった。

まぁ、反応としては正しい。


「帰って来れなかったのも、おれが【害蟲】としての力を管理出来なかったからだ」


「その……【害蟲】っていうのは、そんなに危険なの?」

母さんは理解出来ていない。下手すれば即死するほどの毒を、俺が所持している事を。


説明するよりも早く、奏が動いた。母さんの腕を掴み、みことのいる方まで引っ張って行ったのだ。

「兄貴……って呼ぶべきなのかな……。ともかく、殺る気で来たなら手加減しないよ?」

余談かも知れないが、妹との喧嘩で俺が勝利を手にした事は無い。

特に奏に関しては、細身にしては腕っ節が男子以上であり、運動面であまり恵まれていた訳でない俺は、尻に敷かれるばかりであった。


だが、そんな日々は終わった。


「……本気か兄貴?」

俺の戦闘体勢に、鼻で笑う奏。

食卓テーブルを挟んで、兄妹の闘気がぶつかり合う。

「…………本気だと思うか?」

「まぁそっちがどうであれ、殺るけどね」

そう言い放ち、奏という名前の割に無音で背後に回り込み、背中に一発――――。


パンチでも喰らわそうとしたのだろう。


だが背中から俺を殴るなんて、ある意味無謀である。

奏をひるませようと、俺は蛾のはねを拡げた。

俺は【害蟲】に成ってから、鍛えて複眼を手に入れた。背後も視界の内になったのだが、あえて避けなかった。


奏はというと、驚きに恐怖をいた様な顔をしていた。

腰が砕けたみたいにへにゃりと力が抜けてしまったらしい。その場に崩れ、自らの兄の変貌ぶりにただただ目を白黒させるばかりだった。


「ごめんな、奏。命も、母さんも。

俺、やっぱりもう――――――――」


その後は何も口にせず、俺は家を去る。

あんな顔を見たら、誰も帰って居座ろうなんて気にはなれないだろう。


驚きと恐怖、そしてそれを混ぜた、畏怖。

それは人に向けられるものでは無い。

化け物、異形に向けられる、そんな眼だ。


俺は人として、あまりに蟲に成り過ぎた。

そして居場所がまた1つ、消えた……。

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